川崎哲のブログとノート

ピースボート共同代表、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員の川崎哲の活動の紹介、オピニオン、資料などを載せています

NPT再検討会議――最終文書に向けて注目すべきこと

ニューヨークで開催されている核不拡散条約(NPT)再検討会議は、最終週に入りました。8月26日(金)の会期末に全会一致の最終文書に合意できるのかどうかが注目されています。文書に合意できれば会議は成功で合意できなければ失敗というほど、単純なものではありません。何が合意され何が合意されないのかを見ていく必要があります。

以下、核軍縮に関する内容を中心に、先週末にまとめられた主要委員会1(核軍縮)の報告書案(MC.I/CRP.1/Rev.2)をベースに重要な論点を見ていきたいと思います。最終週の交渉の中で、日本をはじめとする各国政府に取り組んでもらいたいポイントについても述べていきます。【8.23追記:なおその後、最終文書案が発表されました(CONF.2020/CRP.1)ので、最終文書における該当パラグラフを斜体で追記します。】<※8月26日9:20am、最終文書案の改訂に伴いさらにTwitter, Facebook上でコメントしています。同15:15、改訂第2案を受けさらにTwitter, Facebook上でコメントしています。>

第一に、核兵器の非人道性と核兵器禁止条約に関してです。パラ29から32【パラ126から129】では、核兵器の非人道性について、2010年の合意に基づきつつ、さらに具体的に詳述しています。とりわけパラ31【パラ128】で、核兵器が「健康、環境、生物多様性、インフラ、食料安全保障、気候、開発、社会の一体性、世界経済」に甚大な影響をもたらすと認めていることは注目されます。

そしてその流れで、パラ33【パラ130】において、核兵器禁止条約の採択、発効、第一回締約国会議開催が「認識(acknowledge)」されています。核兵器禁止条約に関するこうした事実の叙述については、これまで同条約を強く嫌がってきた核兵器国も拒否できないところまで来ていると思われます。ここに、核兵器禁止条約とNPTの補完性への言及が加われば、さらに意義深いものになります。しかし、補完性に関する言及がなかったとしても、NPT再検討会議の最終文書に核兵器禁止条約に関する言及がきちんとなされれば、それだけで、両条約には関連性があることを示すことになります。また、今回のNPT再検討会議の最終文書に核兵器禁止条約への言及が残れば、それは今後、日本が提出する国連総会決議の文面のベースにもなり得るでしょう。

これら核兵器の非人道性や核兵器禁止条約に関する記述に対しては、今後これを削除するようにという核兵器国の強い圧力がかかってくるでしょう。しかし、今ある記述は最低限維持するべきです。日本政府は核兵器国と非核兵器国の「橋渡し」を自任し、核兵器の非人道性についても重視しているわけですから、今ある記述が維持されるようにしっかりと外交努力すべきです。

第二に、核兵器国による「核兵器廃絶への明確な約束」を含む過去の核軍縮合意を再確認することについてです。これについては報告書案のパラ5、9、10、11、12、13、56およびその以下の節にしっかりと書かれています(【パラ106~110、151】)。またパラ28【パラ125】にある「NPTの無期限延長は、核兵器国による無期限の核保有を認めたものではない」という言葉は、パンチが効いていますね。その通りです。こうした認識が最終合意に盛り込まれるかどうかが注目されます。

もちろん、過去合意が再確認されたとしても、それをいつまで経っても実行しないのであれば意味がありません。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が核軍縮の実行のためにタイムラインやベンチマークが必要だといっているのは、そのような理由からです。そのためにこそ、核兵器国が核軍縮の定期的な報告を行うことが重要なのですが、この点について、今回の再検討会議では大きな進展がありません。核兵器国が報告の形式や頻度について「合意するように努力を継続」するなどと、悠長なことを言っています(パラ19【パラ116】)。しかし、既に2015年の再検討会議の際に、報告の形式についてはかなり具体的で詳細なものが提案され、合意されかけていました。(NPT/CONF.2015/R3におけるパラ154の11節。 )こういった議論が今回の会議で前進した形跡がありません。日本政府は「透明性」を重視すると表明していました(岸田首相)が、だとするならこうした報告のあり方についてもっと突っ込むべきでした。今頃「報告のあり方の議論を継続」するなんて、時間稼ぎにもほどがあります。

第三に、核戦争の回避およびロシアによるウクライナへの侵攻と核の威嚇に関してです。パラ22【パラ119】は、今年1月の5核兵器国の声明(「核戦争に勝者はなく、核戦争を戦ってはならない」)について核兵器国が確認していることを歓迎するとしています。しかし、核保有国間の戦争をしてはならないと宣言した翌月に、ロシアは核の威嚇を背景に戦争を開始しました。ですから、このような宣言はただの空文であって、お気楽に「歓迎」している場合ではないという見方もできます。その意味で、パラ22【パラ119】の最後に「すべての核兵器国がこの確認を遵守することの重要性を強調する」という一文が入っていることは重要です。言ったことを守れ、という意味です。最終合意にはこのような強い念押しが必須であり、単に宣言の再確認だけでは意味がないでしょう。

後半のパラ27 (C)【パラ152の下の32 (C)】 は、「核兵器の危険な物言いや、核兵器を使用するとの――とりわけ軍事的威圧、恫喝、脅迫のための――直接的・間接的な威嚇」をしないよう核兵器国に求めています。核兵器の「威嚇」がこれだけ大きな問題になっているのはロシアによるウクライナへの軍事侵攻があるからで、NPT再検討会議の歴史の中でもきわめて珍しいといえます。多くの国がロシアによる核の威嚇を非難してきた一方、西側核兵器国は、ロシアは無責任な行動に出ているが自分たちは「責任ある」核兵器国だと主張してきました。ロシアは、自分たちは威嚇はしていない、単に抑止をしているだけだと主張しています。では、核の威嚇と抑止を明確に区別することはできるのか。「威嚇は悪いが抑止は良い」という主張に説得力はあるのか。この点で、核兵器禁止条約は明確に核兵器の威嚇を禁止しています。NPTはその点で明確ではありませんでした。NPT再検討会議が、核の威嚇を巡って、どのような最終合意に至るのかは、重要な注目点です。

また、パラ48【パラ145】は、ウクライナのNPT加入と共に同国の安全を保証したブダペスト覚書(1994年)を完全に遵守することを求めています。ウクライナに対して軍事侵攻したロシアは明らかにブダペスト覚書に違反したというべきですが、ロシアは「違反していない」と主張しています。どうやらロシアの主張は、ウクライナに対しては核の使用・威嚇をしないししていない、ロシアの核はあくまで西側諸国(NATO)が介入することを抑止するためのものである、したがってブダペスト覚書の中にある「非核兵器国に対して核兵器の使用・威嚇をしない」という部分については違反していないということのようです。仮に百歩譲ってそのような主張があり得ると認めたとしても、ロシアが、同覚書が定めるウクライナの独立、主権、領土の尊重に違反したことは否定のしようがありません。それゆえ、最終合意は、もっと明確な形でブダペスト覚書そのものの意義とその完全遵守の重要性を掲げるべきでしょう。そうでないと、核兵器国による「安全の保証」の根幹が揺らいでしまいます。

その意味で、報告書案が、後半のパラ22 (b)【パラ152の下の27 (b)】において、核兵器国はNPTに締約する非核兵器国に対して「いかなる状況下においても」核兵器を使用・威嚇しないことと書いていることは注目されます。米国などの姿勢は、NPTに締約しかつ「NPTを遵守している」非核兵器国に対しては核兵器を使用・威嚇しないというものです。「いかなる状況下においても」というのはそれを一歩進めた表現です。このような表現に核兵器国が同意するのかどうかは、1つの注目点です。

第四に、核兵器の先制不使用に関してです。現在、核兵器国が核兵器の役割の低減のためにとるべき措置の1つとして報告書案に載っています(後半のパラ6【パラ152の下の15】)。これが、最終文書に向けた議論の中でどうなっていくかが注目されます。

なお、核兵器の役割の低減に関しては、これに先立つ報告書案では、核兵器国と軍事同盟関係にある非核兵器国の課題でもあるという記述がありました。その記述はなくなってしまいましたが(「核の傘」の下にある国々の政府が嫌がったからでしょう)、それでも、パラ25【パラ122】では、核兵器の役割の低減に関して「締約国」が報告すべきであるとしていて、それを核兵器国に限定していません。核兵器に依存する政策をとっている非核兵器国もまた、核の役割低減の報告義務があると解釈すべきでしょう。

第五に、被爆地訪問や核被害者との交流、そして軍縮教育についてです。これは、後半のパラ31【パラ192】に出ています。岸田首相が世界の若者の広島・長崎への訪問を促すための13億円の基金を国連に拠出することを発表した、ということが再検討会議の冒頭で大きく報道されました。しかし、これを単に「広島・長崎への訪問促進」というふうに捉えるべきではありません。報告書案では、若い世代が「核兵器の使用・実験の被害者や被害コミュニティと交流しその経験を学び、その人道上また環境上の影響について知る」ことが重要だとされており、それが軍縮教育の文脈で記述されています。これがこのまま最終文書に反映されるかどうかは分かりませんが、いずれにせよ、広島・長崎が世界の核の被害地・被害者とつながって、核兵器をなくすための世界的な教育を進めていくという視点が重要です。日本が新たに国連に拠出する基金も、そのような観点から有効に使われていく必要があるでしょう。

最後に、その他の課題についても指摘しておきます。今回の会議で大きな焦点となった豪米英(AUKUS)を通じた豪州による原子力潜水艦の取得とそれに関わる保障措置の問題(【パラ36】)や、ザポリージャ原発の状況を含む武力紛争と原発の安全性の問題【パラ34、35、99、100、102 (g)、160の下の6】)がどのように最終文書に記載されるかはいずれも重要な論点です。なお、日本の六ヶ所での再処理とプルトニウム備蓄の問題は、今のところ取りあげられていないようです。一方で、福島原発事故に伴う処理汚染水の海洋放出の問題について、中国がくり返し問題提起し、太平洋島嶼国からも指摘が出ていましたが、今のところ報告書案には取りあげられていません。この扱いについても、注目が必要です。

2022.8.22(8.23追記)
川崎哲

<※8月26日9:20am、最終文書案の改訂に伴いさらにTwitter, Facebook上でコメントしています。同15:15、改訂第2案を受けさらにTwitter, Facebook上でコメントしています。>

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This entry was posted on 2022/08/22 by in Uncategorized.
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