川崎哲のブログとノート

ピースボート共同代表、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員の川崎哲の活動の紹介、オピニオン、資料などを載せています

[2020.3] 「使いやすい核」?

被団協新聞の3月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 「使いやすい核」? 米国防総省は2月、潜水艦発射弾道ミサイルに「小型」の核弾頭を配備したと発表した。これはトランプ政権の2018年の核戦略を実行に移したものだ。それは、ロシアの戦術核に対し迅速に使用できる核兵器をもつことが抑止力を強化するというものだ。潜水艦が標的に近づけば15分で打撃を加えられ、爆撃機のように敵の防空網をかいくぐる必要もないと米科学者連盟の専門家は解説する。 小型といっても、その威力は約5キロトンで広島の原爆の3分の1である。使用されれば壊滅的な影響がある。問題なのは「使いやすい」という概念だ。使いやすければやすいほど相互に均衡がとれて使われなくなるというのが核抑止論者の議論だ。しかし常識に照らしてどうか。使いやすくすれば偶発的な発射も含め核のリスクは高まり、さらに軍拡競争にも道を開く。きわめて危険な動きだ。(川崎哲、ピースボート)

2020/03/20 · Leave a comment

コロナ危機が私たちに投げかけているもの

 新型コロナウイルスの感染拡大についてグテーレス国連事務総長は「国連75年の歴史の中でかつてない危機」として世界的な連帯を呼びかけた。ドイツのメルケル首相は国民への演説で「第二次世界大戦以来の挑戦」だと述べている。9年前に東日本大震災が起きたとき「日本で第二次大戦以来の大災害」と報じられたことを思い出す。 多くの専門家は、このウイルスを撲滅することは不可能であり最終的には人類の過半が感染を経て集団免疫をもつしかないといっている。と同時に、それに至るペースを制御しなければいけないという。ペースが速まれば医療が崩壊してしまうからだ。実際、それが起き始めている国が少なくない。 ペースを抑える手段として、人と人が接近しないようにする「社会的距離」の政策が推奨されている。これは大きなストレスを伴うもので、どれだけ実効的に長期間継続できるのかは疑問だ。しかし、幸い、通信技術の発展により、直接の接触をせずネットでコミュニケーションをとることができる。今後は、リアルな対面とネットとのバランスの取り方が問われてくるだろう。とりわけ日本の東京などの場合、そもそも非合理的であった満員電車通勤などをなくす好機にはなるし、むしろそうしていくべきだ。 この肺炎に対処するために必要なのは隔離施設とベッドと人工呼吸器ということだろうから、特別に高度な技術を要するものではなさそうだ。しかし、国や地域により医療インフラの水準は異なるわけだから、不可避的に危機の格差が生じる。医療インフラが充実していればすぐに危機にはならないが、それが足りなければあっという間に崩壊する。そのような命の格差は許されない。それゆえ当面は緊急対応をしつつも、中長期的には基礎医療の拡充を図ることを考えなければならない。日本だって「このままだと医療崩壊だ」というけれど、このくらいで崩壊してしまう医療にしてきた責任は誰にあるのか。 高齢者や基礎疾患を抱えた人たちが特にこのウイルスに脆弱であるという。では、ウイルスが怖いからといってこの人たちを自宅に放置しておいたならば、別の形で、命と尊厳を損なう事態になる。そもそも高齢者ケアの現場は極度の人手不足だったわけであり、その抜本的な拡充が不可欠だ。コロナ危機でさまざまな産業がストップして失業者が増えるというのであれば、むしろその人手を福祉に回すくらいの大胆な発想が必要だ。 現代世界における真の脅威は、敵国が自国を攻撃するというような古典的モデルではもはやなく、国境で止めることが本質的に困難な自然現象であることが改めて浮き彫りになった。しかもその脅威は、人間自身が作り出したシステムによって増幅されている。しかし多くの人々の思考は、いまだ国境で仕切られ、国ごとのアイデンティティに支配されている。ウイルス感染国や地域への差別やいじめも横行する。それが問題解決に何ら貢献せず、むしろ妨害するものでしかないことは明らかであるのに。 コロナ危機への対処は、世界規模で相当の期間を要するだろう。世界的不況はもはや不可避であり、貧困や格差の問題はさらに深刻化する。真に人間の安全にとって必要な国際協力に舵をとるべきである。主権国家が武器で他国を威嚇して自国を守るというような20世紀型の安全保障観からさっさと卒業しなければならない。人類皆殺しの核兵器や大量破壊兵器にお金をつぎ込んで、戦争ごっこや軍備競争をしている余裕は、私たちにはないのだ。お金と資源を人間に振り向けない限り私たちの生存は続かない。必要なのは特別な技術ではなく、冷静な思考力だ。 2020年3月20日 川崎哲

2020/03/20 · 1 Comment

『3.11を心に刻んで2020』のブックガイドに寄稿しました

東日本大震災、福島原発事故から9年にあたり、岩波ブックレット『3.11を心に刻んで 2020』(岩波書店編集部編)が刊行されました。このブックレットは、岩波書店のホームページ上で連載されているエッセイ(毎月11日更新)を年に一度まとめているものです。2020年版のブックレット出版にあたり、「3.11を考えつづけるためのブックガイド」のコーナーに3冊の本を紹介しました。 私がおすすめしたのは、以下の3冊です。 ●長谷川健一『原発に「ふるさと」を奪われてー福島県飯舘村・酪農家の叫び』宝島社、2012年 ●ピーター・ヴァン・ネス、メル・ガートフ編著、生田目学文訳『フクシマの教訓ー東アジアにおける原子力の行方』論創社、2019年 ●太田昌克『日米<核>同盟ー原爆、核の傘、フクシマ』岩波新書、2014年 岩波ブックレット『3.11を心に刻んで 2020』は、こちら。

2020/03/08 · Leave a comment