[2021.10] シンクタンクの出資元
被団協新聞の10月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 シンクタンクの出資元 米国の上位50のシンクタンクに対して米政府と軍事企業が10億ドル以上の資金を提供していることを、民間組織・国際政策センターが明らかにした。昨秋の報告書によれば、米政府では国防総省、国土安全保障省、国務省が、軍事企業ではノースロップ・グラマン、レイセオン、ボーイングなどが多額の出資元だ。受領しているのはランド研究所、新アメリカ安全保障センター、新米国研究機構といったシンクタンクである。 こうした出資を受けるシンクタンクの専門家が、議会証言や調査研究で防衛費増額や武器売却の必要性を宣伝するのは「利益相反」の可能性があると同センターは指摘し、シンクタンクによる出資元の情報公開を法的に義務づけよと提言している。日本でも、いわゆる安保・防衛の専門家がどこからお金をもらって活動しているのか、注意しておくことが必要だ。(川崎哲、ピースボート)
第33回谷本清平和賞 受賞にあたって
本日、第33回谷本清平和賞の受賞発表がありました。 被爆者の救援に身を投じ尽力してこられた谷本清牧師のお名前を冠する賞をいただくのは、大変おそれ多いことです。戦争の恐ろしさを戦争を体験していない人間が伝えていかなければならない時代にいよいよ入ったと感じます。 私はピースボートの船旅を通じて、広島・長崎の被爆者の方々の証言を世界に伝える活動をしてきました。それは常に、多くの人々の共同作業でした。被爆者ご本人、迎え入れる世界各地の人々、その間をつなぐ若者、通訳、メディア。訪ねたその国々の戦争被害者や核の被害者たちともつながってきました。そうした人々の輪を大切にし、さらに広げていきたいと思います。 被爆者に出会い心を動かされた人々が行動したことで、核兵器禁止条約が採択され発効しました。核兵器なんて絶対にダメだと被爆者ご自身が語ってくださる時間はあと僅かです。それでもこの条約は生き続け、将来にわたり国々をしばり続けます。日本をはじめとする全ての国がこの条約に入るよう、ICANの仲間たちと活動をさらに強めてまいります。 2021年10月15日 川崎哲 ※ピースボートでは、被爆者のメッセージを世界に伝える「おりづるプロジェクト」へのご支援を皆さまにお願いしています。こちらのページをどうぞご覧ください。
核兵器禁止条約「オブザーバー参加」すら約束できない岸田首相には落胆しかない。来る総選挙で動かそう
岸田新政権が発足した直後、私は朝日新聞に「核廃絶の道筋 与野党は政策論争を」と題して寄稿し、核兵器禁止条約への署名・批准や同締約国会議へのオブザーバー参加について各党・各候補者はしっかりと議論してほしいと呼びかけた。今年8月に広島でNGOが主催した討論会では、自民党も含め与野党8党の代表者は全員、締約国会議へのオブザーバー参加に前向きな姿勢を示していた。同条約への署名・批准をめざしつつ当面はオブザーバー参加していくということでは、立憲・共産など野党4党の合意内容と、与党である公明の主張は大きくは変わらない。問題は自民党である。日本は核兵器廃絶をめざしていると言いながら、核兵器禁止条約への署名・批准を長期的にでもめざしていくという姿勢を公言している自民党の国会議員は2%程度と、他党に比べて圧倒的に少ない(「議員ウォッチ」調べ)。 そうした中、広島選出の岸田文雄氏が首相に就任し、被爆地の代表として「核兵器のない世界」に向けた努力をくり返していることに、私は一定の期待を寄せていた。ICANのベアトリス・フィン事務局長や被爆者のサーロー節子さんが就任当日に岸田首相に手紙を送ったように、核兵器の非人道性を世界に率先して語ることのできる首相として、核兵器を非人道兵器として全面的に禁止したこの条約について、少なくとも、締約国会議へのオブザーバー参加してほしいし、そのくらいの決断はしてもらえるのではないかと考えていた。 ところがこの数日間の国会での代表質問をみると、岸田首相は、オブザーバー参加を拒否している。岸田氏は、核兵器禁止条約は核兵器のない世界への「出口」ともいえる「重要な条約である」としてこの条約の意義を率直に認めている。この点はこれまでの首相にはなかったことであり、評価できる。しかし、オブザーバー参加せよと求める与野党の声に対しては「ご指摘のような対応よりも、核兵器国を関与させていくような努力をしていく。米国の信頼を得た上で、核兵器のない世界へ向けて取り組んでいく」とくり返し答弁している。「参加しない」とまでは明言していないが、事実上の拒否といえる。 しかし、これには全く納得がいかない。 核兵器国を関与させることは確かに必要であるし、米国と共に核軍縮に取り組むことも重要だ。しかし、だから核兵器禁止条約は無視してよいということにはならない。両方必要なのだ。 核兵器禁止条約は、非核保有国主導の取り組みである。核保有国はこれに反発しており、首相も指摘しているように、一カ国も入っていない。首相はだから核保有国と非核保有国の「橋渡し」をしていくという。しかし「橋渡し」するのが本気なら、核保有国とも軍縮の努力をし、非核保有国とも協力を深めつつ、両者の対話を促進するということになろう。非核保有国が主導する核兵器禁止条約の締約国会議の場に出ていき、そこで日本の立場を述べることこそまさに「橋渡し」にふさわしい行動ではないか。 日本は自らオブザーバー参加すると表明した上で、米国にもオブザーバー参加を促すことができるはずだ。それに米国が応じなくても、締約国会議の場で、日本が米国と共に取り組んでいる内容について締約国に説明することができる。 締約国会議の招集者である国連事務総長は、日本や米国を含むすべての国連加盟国に招待状を出している。ホストするオーストリア政府は、あらゆる国の参加を歓迎すると表明している。橋はそこにあるのだ。それなのに、日本は橋を渡ることを拒んでいる。 今朝、嬉しいニュースが入ってきた。ノルウェーが、核兵器禁止条約締約国会議にオブザーバー参加することを表明したのである。米国との軍事同盟であるNATO(北大西洋条約機構)加盟国として初めての表明となる。 すでに、スウェーデン、スイス、フィンランドそしてマーシャル諸島がオブザーバー参加を表明している。これらの国々の多くは条約制定過程で積極的な役割を果たしたが、条約への署名・批准については国内の政治的意思を固め切れておらず、未署名のまま参加することになる。 ノルウェーがこのたび参加を決定したのは、先月の総選挙で労働党が勝利し政権が交代したことによるものである。ドイツでも新政権が誕生しようとしており、ノルウェーに続いてオブザーバー参加を表明する可能性がある。NATO加盟国でもオブザーバー参加できるのだから、日本は米国との関係があるから参加できないという言い訳はもはや通用しない。 マーシャル諸島は、1954年3月のビキニ水爆実験などで知られるように、核実験の被害国である。核兵器禁止条約には、核兵器の使用や実験で被害を受けた人たちに対する援助と、放射能で汚染された環境の回復の義務に関する規定がある。来年3月にウィーンで開かれる第1回締約国会議では、それが重要な議題になる。だからこそマーシャル諸島はこの会議に参加するのである。 日本は、世界で唯一戦争時に核兵器の被害を受けた国であり、今も十数万人の被爆者が医療的・社会的援助を受けながら暮らしている。日本には、チェルノブイリや福島の原発事故による健康や環境上の被害に関する知見も多く、この分野で数多くの専門家がいる。日本がこの会議に参加して核被害者の援助に関する議論に貢献するのは当然のことである。岸田首相は、被爆国として日本が世界から期待される役割を果たすことを拒むのか。 岸田首相がいうところの「米国の信頼を受けた上で核兵器のない世界に向けて前進していく」ということは、もちろん大事だ。バイデン大統領との初の電話会談で「核兵器のない世界」に向けた努力について話題にしたことは評価する。しかし問題は、それに中身があるのかどうかである。 現在バイデン政権は「核態勢の見直し」に取り組んでいるが、核兵器の先制不使用を宣言するかどうかが焦点となっている。核兵器の全面禁止とまではいかなくても、先に使うことはしない。そう宣言することで、核戦争が起きる危険性を大きく減らし、核削減の条件を作ろうというものだ。 ところがこれまで日本の歴代政権は、米国による核兵器の先制不使用に反対する態度をくり返してきた。「核の傘」が弱まってしまうからというのである。そこで今回ばかりは「日本は先制不使用に反対するな」と、米元高官らが日本の政治指導者に要請する事態にまでなってきている。日本が米国から、「核軍縮の邪魔をするな」と言われてしまっているのだ。 この問題について岸田氏は「日本から米国に核兵器の先制不使用を求めることはない」(自民党総裁選前)と、消極姿勢だ。しかもこれは、日本が反対するのかどうかと問われているのに対して、ピント外れなコメントになっている。 核兵器禁止条約の会議には出ない。核被害者救済の議論にも加わらない。このままではおそらく、日本が今年提出する国連総会決議案も、例年通り、核兵器禁止条約を全く無視した文面になるのだろう。その一方で米国と核軍縮で協力するというが、その中身はこれまでと同じで一歩も踏み出さない。 これではいくら「核廃絶という名の松明を、私もこの手にしっかりと引き継ぎ核兵器のない世界に向け全力を尽くします」(所信表明演説)と言われても、空っぽだ。 岸田首相に対して「このままではいけません」と、心ある与党議員がしっかりと説得してくれるか、あるいは、来る選挙で野党が勝利して、公約通り「署名・批准をめざしてオブザーバー参加する」か――そのどちらかまたは両方が必要だ。 この意味できわめて重要なのが、10月31日の総選挙だ。私たちは、一人ひとりの候補者に対して「核兵器禁止条約、どうするおつもりですか」と声をかけていこう。#お答えください核兵器禁止条約 2021.10.14川崎哲
核兵器禁止条約を総選挙の争点に!
広島選出の岸田文雄氏を首相とする新政権が発足しました。岸田首相は「核兵器のない世界」に向けて努力すると言っていますが、核兵器禁止条約に対する態度は曖昧です。岸田政権に対して、また、来る衆議院総選挙において、核兵器禁止条約に日本が加わることを私たちが求めていくことが重要です。そして、核兵器禁止条約への態度を明確にしていない現職議員や候補予定者に対して、態度表明をするように働きかけていく必要があります。 そうした観点から、本日(10月8日)付の朝日新聞「私の視点」に「衆院選を前に――核廃絶の道筋 与野党は政策論争を」と題する文章を寄稿しました。こちらで読むことができます。 岸田首相就任に際しては、ベアトリス・フィンICAN事務局長やカナダ在住被爆者のサーロー節子さんから手紙が出され、NHKなど報道でも大きく取り上げられました。 10月19日に公示、31日に投開票が予定されている衆院総選挙で、各党・各候補者は、核兵器禁止条約への日本の対応をしっかりと議論すべきです。 「議員ウォッチ」プロジェクトでは、日本の国会議員、都道府県知事、市区町村議会の核兵器禁止条約への立場をリサーチし、オンライン上で公表し、賛同を呼びかけてきました。日本が核兵器禁止条約に参加すべきだという声は各種世論調査で70%を超えているのに対し、国会議員の賛同率は28%に留まり、未だ大きな乖離が見られます。議員ウォッチ上には、現職と候補予定者900名近くの情報が公開されています。 ぜひ皆さん、議員ウォッチを活用して、現職国会議員および候補予定者に対して、核兵器禁止条約への賛同を表明するように呼びかけてください。議員ウォッチでは学生団体KNOW NUKES TOKYOと協力して、まだ態度を明らかにしていない現職や候補予定者に対して電話やFAX、SNSを通じてアプローチを始めました。すでに賛同の反応も多数寄せられています。皆さんにもこの取り組みにぜひ参加していただきたいと思います。呼びかけ方はこちらから) またこのたび、公益社団法人Marriage For All Japan – 結婚の自由をすべての人に(マリフォー)が「マリフォー国会メーター」を立ち上げましたので、合わせてお知らせします。これは、同性婚の法制化についての国会議員や候補予定者各人の立場を明らかにしているサイトで、議員ウォッチと提携運営しています。(マリフォー国会メーターはこちら) 議員ウォッチには各都道府県の小選挙区割も出ています。自分の選挙区が分からない方は、それで調べられます。一人ひとりが地元選出議員への問いかけや働きかけを積極的に行って、私たちの力で政治を変えていきましょう。#YesICAN
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