川崎哲のブログとノート

ピースボート共同代表、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員の川崎哲の活動の紹介、オピニオン、資料などを載せています

核兵器禁止条約「オブザーバー参加」すら約束できない岸田首相には落胆しかない。来る総選挙で動かそう

2017年12月10日、ICANノーベル平和賞受賞にあたってのトーチライト(松明)パレード(オスロ)

 岸田新政権が発足した直後、私は朝日新聞に「核廃絶の道筋 与野党は政策論争を」と題して寄稿し、核兵器禁止条約への署名・批准や同締約国会議へのオブザーバー参加について各党・各候補者はしっかりと議論してほしいと呼びかけた。今年8月に広島でNGOが主催した討論会では、自民党も含め与野党8党の代表者は全員、締約国会議へのオブザーバー参加に前向きな姿勢を示していた。同条約への署名・批准をめざしつつ当面はオブザーバー参加していくということでは、立憲・共産など野党4党の合意内容と、与党である公明の主張は大きくは変わらない。問題は自民党である。日本は核兵器廃絶をめざしていると言いながら、核兵器禁止条約への署名・批准を長期的にでもめざしていくという姿勢を公言している自民党の国会議員は2%程度と、他党に比べて圧倒的に少ない(「議員ウォッチ」調べ)。

 そうした中、広島選出の岸田文雄氏が首相に就任し、被爆地の代表として「核兵器のない世界」に向けた努力をくり返していることに、私は一定の期待を寄せていた。ICANのベアトリス・フィン事務局長や被爆者のサーロー節子さんが就任当日に岸田首相に手紙を送ったように、核兵器の非人道性を世界に率先して語ることのできる首相として、核兵器を非人道兵器として全面的に禁止したこの条約について、少なくとも、締約国会議へのオブザーバー参加してほしいし、そのくらいの決断はしてもらえるのではないかと考えていた。

 ところがこの数日間の国会での代表質問をみると、岸田首相は、オブザーバー参加を拒否している。岸田氏は、核兵器禁止条約は核兵器のない世界への「出口」ともいえる「重要な条約である」としてこの条約の意義を率直に認めている。この点はこれまでの首相にはなかったことであり、評価できる。しかし、オブザーバー参加せよと求める与野党の声に対しては「ご指摘のような対応よりも、核兵器国を関与させていくような努力をしていく。米国の信頼を得た上で、核兵器のない世界へ向けて取り組んでいく」とくり返し答弁している。「参加しない」とまでは明言していないが、事実上の拒否といえる。

 しかし、これには全く納得がいかない。

 核兵器国を関与させることは確かに必要であるし、米国と共に核軍縮に取り組むことも重要だ。しかし、だから核兵器禁止条約は無視してよいということにはならない。両方必要なのだ。

 核兵器禁止条約は、非核保有国主導の取り組みである。核保有国はこれに反発しており、首相も指摘しているように、一カ国も入っていない。首相はだから核保有国と非核保有国の「橋渡し」をしていくという。しかし「橋渡し」するのが本気なら、核保有国とも軍縮の努力をし、非核保有国とも協力を深めつつ、両者の対話を促進するということになろう。非核保有国が主導する核兵器禁止条約の締約国会議の場に出ていき、そこで日本の立場を述べることこそまさに「橋渡し」にふさわしい行動ではないか。

 日本は自らオブザーバー参加すると表明した上で、米国にもオブザーバー参加を促すことができるはずだ。それに米国が応じなくても、締約国会議の場で、日本が米国と共に取り組んでいる内容について締約国に説明することができる。

 締約国会議の招集者である国連事務総長は、日本や米国を含むすべての国連加盟国に招待状を出している。ホストするオーストリア政府は、あらゆる国の参加を歓迎すると表明している。橋はそこにあるのだ。それなのに、日本は橋を渡ることを拒んでいる。

 今朝、嬉しいニュースが入ってきた。ノルウェーが、核兵器禁止条約締約国会議にオブザーバー参加することを表明したのである。米国との軍事同盟であるNATO(北大西洋条約機構)加盟国として初めての表明となる。

 すでに、スウェーデン、スイス、フィンランドそしてマーシャル諸島がオブザーバー参加を表明している。これらの国々の多くは条約制定過程で積極的な役割を果たしたが、条約への署名・批准については国内の政治的意思を固め切れておらず、未署名のまま参加することになる。

 ノルウェーがこのたび参加を決定したのは、先月の総選挙で労働党が勝利し政権が交代したことによるものである。ドイツでも新政権が誕生しようとしており、ノルウェーに続いてオブザーバー参加を表明する可能性がある。NATO加盟国でもオブザーバー参加できるのだから、日本は米国との関係があるから参加できないという言い訳はもはや通用しない。

 マーシャル諸島は、1954年3月のビキニ水爆実験などで知られるように、核実験の被害国である。核兵器禁止条約には、核兵器の使用や実験で被害を受けた人たちに対する援助と、放射能で汚染された環境の回復の義務に関する規定がある。来年3月にウィーンで開かれる第1回締約国会議では、それが重要な議題になる。だからこそマーシャル諸島はこの会議に参加するのである。

 日本は、世界で唯一戦争時に核兵器の被害を受けた国であり、今も十数万人の被爆者が医療的・社会的援助を受けながら暮らしている。日本には、チェルノブイリや福島の原発事故による健康や環境上の被害に関する知見も多く、この分野で数多くの専門家がいる。日本がこの会議に参加して核被害者の援助に関する議論に貢献するのは当然のことである。岸田首相は、被爆国として日本が世界から期待される役割を果たすことを拒むのか。

 岸田首相がいうところの「米国の信頼を受けた上で核兵器のない世界に向けて前進していく」ということは、もちろん大事だ。バイデン大統領との初の電話会談で「核兵器のない世界」に向けた努力について話題にしたことは評価する。しかし問題は、それに中身があるのかどうかである。

 現在バイデン政権は「核態勢の見直し」に取り組んでいるが、核兵器の先制不使用を宣言するかどうかが焦点となっている。核兵器の全面禁止とまではいかなくても、先に使うことはしない。そう宣言することで、核戦争が起きる危険性を大きく減らし、核削減の条件を作ろうというものだ。

 ところがこれまで日本の歴代政権は、米国による核兵器の先制不使用に反対する態度をくり返してきた。「核の傘」が弱まってしまうからというのである。そこで今回ばかりは「日本は先制不使用に反対するな」と、米元高官らが日本の政治指導者に要請する事態にまでなってきている。日本が米国から、「核軍縮の邪魔をするな」と言われてしまっているのだ。

 この問題について岸田氏は「日本から米国に核兵器の先制不使用を求めることはない」(自民党総裁選前)と、消極姿勢だ。しかもこれは、日本が反対するのかどうかと問われているのに対して、ピント外れなコメントになっている。

 核兵器禁止条約の会議には出ない。核被害者救済の議論にも加わらない。このままではおそらく、日本が今年提出する国連総会決議案も、例年通り、核兵器禁止条約を全く無視した文面になるのだろう。その一方で米国と核軍縮で協力するというが、その中身はこれまでと同じで一歩も踏み出さない。

 これではいくら「核廃絶という名の松明を、私もこの手にしっかりと引き継ぎ核兵器のない世界に向け全力を尽くします」(所信表明演説)と言われても、空っぽだ。

 岸田首相に対して「このままではいけません」と、心ある与党議員がしっかりと説得してくれるか、あるいは、来る選挙で野党が勝利して、公約通り「署名・批准をめざしてオブザーバー参加する」か――そのどちらかまたは両方が必要だ。

 この意味できわめて重要なのが、10月31日の総選挙だ。私たちは、一人ひとりの候補者に対して「核兵器禁止条約、どうするおつもりですか」と声をかけていこう#お答えください核兵器禁止条約

2021.10.14
川崎哲

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This entry was posted on 2021/10/14 by in Uncategorized.
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