川崎哲のブログとノート

ピースボート共同代表、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員の川崎哲の活動の紹介、オピニオン、資料などを載せています

[2024.5] グテレス総長の提案

被団協新聞の5月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 グテレス総長の提案  3月、国連安保理で日本が議長として核軍縮・不拡散に関する公開会合を開いた。グテレス国連事務総長は、今日「核戦争のリスクはこの数十年で最も高くなっている」と警告し、これに反対する世界の声として、ローマ教皇、行動する若者たち、「勇気ある広島・長崎のヒバクシャ」、そして映画オッペンハイマーを例示した。 事務総長は「軍縮こそ唯一の道だ」と訴え、6点の行動を呼びかけた。第一に、核保有国間の対話。第二に、核の脅しをやめること。第三に、核実験停止の継続。第四に、NPTの下での核軍縮の約束の実行。第五に、核保有国間での核の先制不使用の合意。第六に、米ロ新STARTや後継条約を通じた核削減である。そして「NPTと核兵器禁止条約を含む世界的な軍縮アーキテクチャ(建造物)の強化」を求めた。 日本政府にはまずこれらの政策への支持表明を求めたい。(川崎哲、ピースボート)

2024/05/11 · Leave a comment

[2024.4] オッペンハイマー

被団協新聞の4月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 オッペンハイマー  映画「オッペンハイマー」が公開された。マンハッタン計画を主導した物理学者の生き様を描いた映画だ。広島への原爆投下に米国人が熱狂するシーンは直視するに堪えない。大量殺戮をもたらした現実に本人が悩む姿は描かれているが、その惨状はスクリーン上には全く登場しない。想像力がなければ誤解されうる映画だ。 それでも私はこの映画を高く評価したい。核兵器と軍国主義を描いた映画だと思う。科学と政治、国家と個人、ナチズムや共産主義という「敵」の設定、男性中心社会など現代に通じるテーマが満載だ。AI兵器の登場、ガザの虐殺を止められない「民主主義国家」の矛盾、日本で高まる「国家安全保障」言説の危険性など、現代に多くの問題提起をしている。原爆によって苦しめられた人間には憤りや悔しさを感じるシーンも多いだろうが、一度は観てみることをお勧めする。(川崎哲、ピースボート)

2024/04/19 · Leave a comment

[2024.3] 米国の圧力?

被団協新聞の3月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 米国の圧力?  日本が核兵器禁止条約に参加しないのは米国から圧力を受けているからではない。「米国との関係を悪化させたくない」と忖度して、政府自身が参加しないと決め込んでいるのだ。 1月に来日したメリッサ・パークICAN事務局長は、日本の政治家らのそうした態度に触れ、こう言った。「米国はとても現実的(プラグマチック)な国で常に自国の国益で行動しています。そして他国もまたそうするものと思っています」。だから、日本が自らの国民世論を理由に核禁条約に入ると決断したらならば、最終的にはそれを受け入れるだろうという。米国と軍事同盟関係にあるフィリピンやタイは、核禁条約を批准した。これらの国は「批准するまでは圧力を受けたが、批准してしまえば圧力はなくなった」という。パーク氏は続ける。「市民が、政府が行動せざるをえない根拠を作る必要があるのです。」(川崎哲、ピースボート)

2024/03/09 · Leave a comment

[2024.2] 日本の言い訳

被団協新聞の2月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 日本の言い訳  「核兵器禁止条約は核兵器のない世界の出口とも言える重要な条約だが、核兵器国は1か国も参加しておらず、いまだ出口に至る道筋は立っていない。」これが日本政府の公式見解だ。 だが核兵器の禁止は出口ではない。入口だ。生物・化学兵器、地雷やクラスター爆弾も、まず条約で禁止したことで廃絶への道が開かれた。核兵器国が入っていないことは、日本が何もしない理由にはならない。核兵器国はお互い、相手が持っているからこちらも持つのだと言い合っている。先月来日したICANのメリッサ・パーク事務局長はこれを「堂々巡りの循環論法」と批判し、悪循環を断ち切るリーダーシップが必要だと訴えた。 中国や北朝鮮の脅威をあげて「厳しい安全保障環境」だから核抑止力が必要だとの声もある。だが逆だ。脅威があるからこそ軍縮が必要なのだ。軍拡競争は、緊張や危険をさらに高めるだけである。(川崎哲、ピースボート)

2024/02/11 · Leave a comment

[2024.1] 核抑止の危険性

被団協新聞の1月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 核抑止の危険性  核兵器禁止条約第2回締約国会議の決定事項の中で注目されるのは「核兵器に関する安全保障上の懸念」についての協議プロセスを始めることだ。核兵器の非人道性とリスクに関する新しい科学的根拠に基づき「核兵器の存在および核抑止論」からもたらされる「安全保障上の懸念、脅威、リスク」を議論する。通常「安全保障上の懸念」というと軍拡や核保有を正当化する文脈で使われることが、核兵器や核抑止論そのものが「安全保障上の懸念」なのだという議論である。オーストリアが牽引し、25年3月の次回締約国会議にまとめと提言を出す。 この協議は条約締約国と署名国の間で行われるが、赤十字やICAN、「その他の関係者や専門家」も関与する。日本政府は「賢人会議」の専門家らがこの議論に加わることを促してはどうか。核抑止に依存した安全保障がいかに危険かを客観的に論ずる好機である。(川崎哲、ピースボート)

2024/02/11 · Leave a comment

[2023.12] イスラエルと核

被団協新聞の12月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 イスラエルと核  イスラエルの閣僚がガザ地区への核爆弾の投下を「選択肢の一つ」と語った。恐るべき発言であり許しがたい。同国の別の閣僚はパレスチナ人を「人間の顔をした獣」とも表現している。敵を非人間化することで皆殺しが正当化される。およそ戦争はそうした差別思想に支えられているが、核兵器はその極限だ。 現実には、四国ほどの面積のイスラエルが隣接する名古屋市ほどの面積のガザ地区に核兵器を投下すれば、自国も被害を免れない。そうした現実を核保有国の閣僚が知らないのならなお恐ろしい。 イスラエル政府は公式には認めていないが、同国が核保有国であることは公知の事実である。イスラエル側の論理は、ホロコーストを経験したユダヤ人の国家にとって安全保障が必要だというものだ。めざすべきは、イスラエルとパレスチナの二国家共存と中東非核・非大量破壊兵器地帯の設立である。(川崎哲、ピースボート)

2023/12/07 · Leave a comment

[2023.11] ロシアのCTBT批准撤回

被団協新聞の11月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 CTBT  プーチン大統領の指示でロシア議会は10月、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准撤回を可決した。同条約に署名したが未批准である米国と「同じ立場」に立つのだという。 CTBTは、原子炉をもつ44カ国がすべて批准して初めて発効する定めだ。うち核兵器国である米国と中国は署名したが未批准であり、これらを含む八カ国が未批准のため、96年にできた条約は未発効のままである。 ロシアは、核実験を再開する意思はなくCTBT機関への協力も継続するとしている。だが、国際法をもてあそぶ無責任な行為だ。 CTBTは、あらゆる核爆発実験を禁止している。核兵器禁止条約は、核爆発を伴うもの以外も含むすべての核実験を禁止している。これらの条約に未だ署名・批准していない国は、速やかにそれらを行い、いかなる核実験もさせない国際ルールを確立すべきだ。(川崎哲、ピースボート)

2023/11/22 · Leave a comment

[2023.10] FMCT?

被団協新聞の10月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 FMCT?  9月の国連総会に合わせ、岸田首相は核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始に向けたハイレベル会合を開いた。 FMCTとは、核兵器目的の核分裂性物質(高濃縮ウランやプルトニウム}の生産を禁止する条約のことで、90年代からその交渉が呼びかけられてきた。材料の生産が止まれば核兵器の増産はできなくなる。だが既存の物質の扱いをどうするのか、また検証はどうするのかといった点をめぐり、議論は停滞してきた。提案から約30年が経った今も交渉開始の目途はたっていない。 一方、やはり90年代から提案されてきた核兵器禁止条約は、2017年に採択され21年に発効した。核禁条約は核兵器の開発を禁止しているから材料物質の生産も当然に禁止している。現存する核禁条約を無視して見通しの立たないFMCTを呼びかけるという政府の姿勢は滑稽だ。(川崎哲、ピースボート)

2023/10/22 · Leave a comment

[2023.9] 締約国会議にオブザーバー参加を

被団協新聞の9月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 締約国会議にオブザーバー参加を  8月に広島で開かれた与野党国会議員の討論会で、自民党を除く全政党の代表が、核兵器禁止条約の締約国会議に日本がオブザーバー参加することを求めた。公明も維新も明確にこの立場だ。自民党の寺田稔「原爆議連」会長はオブザーバー参加の「メリットは見いだせる」としつつ、核兵器国と非核兵器国の「対立の構図」にさせないことが重要であると述べ、党内で持ち帰り議論するとした。 岸田首相はこれまでの国会質疑でオブザーバー参加を求められると「核兵器国を関与させていかねばならない」と答弁している。しかしこれは不参加の理由にならない。むしろ日本が参加することで、核兵器国と非核兵器国の溝を埋める役割を果たすことができる。昨年はドイツなどNATO4カ国とオーストラリアが参加している。日本も、米国と協議の上で参加すればよいではないか。(川崎哲、ピースボート)

2023/09/23 · Leave a comment