[2024.12] 「核戦争」科学パネル
被団協新聞の12月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 「核戦争」科学パネル 国連総会で「核戦争の影響と科学的調査」と題する決議が採択された。核戦争の影響を研究する科学パネルを設置するという内容で、21名の委員を国連事務総長が任命する。核戦争が地域や地球にもたらす物理的・社会的影響、つまり「気候や環境への影響、放射線による影響、公衆保健、世界的社会経済システム、農業や生態系への影響」を2025年から2年間研究し、包括的な報告書を出す。 アイルランドとニュージーランドが主導したこの決議案に第一委員会では、日本を含む144カ国が賛成した。核保有国は中国が賛成、英、仏、ロは反対、米国、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮は棄権した。NATO諸国は賛成(ノルウェーなど)と棄権(スペインなど)に割れた。 核戦争の破滅的な影響を明らかにすることは、核兵器廃絶への推進力となる。被爆国日本は委員を出して貢献すべきである。(川崎哲、ピースボート)
[2024.11] ノーベル平和賞
被団協新聞の11月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 ノーベル平和賞 日本被団協がノーベル平和賞を受賞したという報を受け、驚きと感慨を覚えながら7年前にICANが受賞したときのことを思い出した。当時とくに印象に残ったことの一つは、式典で読み上げられたノーベル委員会による授賞理由演説の質の高さである。核兵器禁止条約の意義を雄弁に語り、それに取り組む「全ての個人と団体を賞賛」した。今年の被団協への授賞理由演説が楽しみだ。 ノーベル平和賞は当時、核兵器禁止条約やICANの存在についての認知を一気に世界に広げてくれた。今年の被団協の受賞によって、ヒバクシャの存在はこれまでよりも格段に世界に知れ渡ることになる。そのお話を聞き核兵器をなくすために行動しようという人の輪は必ず大きくなる。その運動の推進は、しかし、被爆者に続く世代に課せられた課題である。お祝いに終わらせることなく、次の運動を準備したい。(川崎哲、ピースボート)
[2024.10] カザフのNGO
被団協新聞の10月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 カザフのNGO ICANは8月にカザフスタンで核被害者フォーラムを開催するにあたり地元の2NGOの協力を得た。1つは国際安全保障政策センター。代表者アクメトフさんは元外交官だが「政府ではできないことをやりたい」とNGOを立ち上げた。核実験被害者を国際会議に連れてきて実情を訴えるといった活動に長年取り組んでいる。 もう1つは、昨年発足した若者団体STOP。STは草原(ステップ)を指す。20代の彼らが会議を見事に取り仕切ってくれた。最終文書をカザフスタン政府代表に手渡す際、1人が「一言申し上げたい」とマイクをとった。そして、政府が核廃絶を国際社会に訴えているのはよいが、国内の核被害者は未だに十分な援護を受けられていない。政府はもっと被害者に寄り添うべきだと発言。これには大使もたじたじとなっていた。日本とはひと味違う民主主義の力を垣間みた。(川崎哲、ピースボート)
[2024.9] 核兵器に14兆円
被団協新聞の9月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 核兵器に14兆円 ICANの調べでは昨年一年間の核保有9カ国による核兵器への支出総額は914億ドル(約14兆円)。前年比で13%増加した。 うち米国は515億ドル(7.7兆円)を支出しており、他の全ての核保有国の支出総額を超えている。第二位は中国で119億ドル第三位はロシアで83億ドルと続く。ICANがこの調査を始めた5年前に比べ、世界の核兵器支出総額は34%増えた。 一方で世界20社の企業が核兵器の開発や維持で昨年少なくとも310億ドル(4.7兆円)を稼いだ。継続中の契約は3350億ドル(50兆円)以上あり、昨年は新規契約が79億ドル以上あった。これらの企業は政府やシンクタンクに影響力を行使している。米仏政府へのロビー活動に1.2億ドルを費やし、主要シンクタンクに6百万ドルを寄付している。核兵器ビジネスは、このように回っているのだ。(川崎哲、ピースボート)
[2024.8] AUKUS
被団協新聞の8月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 AUKUS 2021年に発足した米国、イギリス、オーストラリア(豪州)3カ国の軍事同盟「AUKUS」が、世界に暗い影を落としている。 AUKUSの第一の柱は、米英による豪州への原子力潜水艦の供与だ。原潜の燃料となる高濃縮ウランを非核保有国豪州に提供するものであるため、核不拡散に反するとの懸念がNPT再検討会議で出されてきた。インドネシアなどは「軍備競争を助長」することへの懸念をくり返し表明している。 第二の柱は、AI(人工知能)の軍事利用や極超音速ミサイルなどの「先進能力プロジェクト」で、日本の参加が決まっている。 中国への対抗という性格が色濃いこの同盟は、正式な条約でなくパートナーシップ協定として各国の議会を通さず進められている。同盟強化で対立を煽るよりも、地域共通の安全保障を図ることに注力すべきでないか。(川崎哲、ピースボート)
[2024.7] 進む核軍拡
被団協新聞の7月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 進む核軍拡 冷戦終結以降、世界の核兵器の数は減ってきた。90年代前半は大幅に減り、以後は緩やかになりつつも減少は続いてきた。今年6月現在で世界の総数は1万2120発、前年より微減だ。しかし、実際に配備されている核弾頭と、配備のために貯蔵されている核弾頭を足した「現役の核弾頭」の数は9583発で、2018年からの6年間で332発(3.6%)増加している。「使える核」は増えているのだ。 増加が顕著なのは中国、北朝鮮、インド、パキスタンである。かつては米国とロシアが世界の核の9割以上を保有していたが、今日では8割台である。核拡散が進んでいる証だ。 イタリアでのG7サミット首脳宣言は「冷戦後の世界の核兵器の減少傾向は維持されなければならない」としているが、現実に世界は核軍拡の時代に突入している。(データは長崎大学RECNA)(川崎哲、ピースボート)
[2024.6] 殺人ロボットの禁止へ
被団協新聞の6月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 殺人ロボットの禁止へ 4月末、オーストリアはウィーンで自律型兵器の規制に関する国際会議を開催した。自律性兵器とは人工知能(AI)が自ら標的を探知し攻撃する兵器システムのことで「殺人ロボット」とも呼ばれる。人間の関与なしに兵器自身が殺傷を行うことは深刻な倫理的問題をはらむことから、禁止を求める声が上げられてきた。昨年国連総会で初の決議が採択されている。 「人類の岐路」と題した今回の会議には日本を含む144カ国が集まりNGOストップ殺人ロボットキャンペーンからも60名が参加した。議長総括は「標的の選別や生死に関わる判断を機械に任せる」ことに懸念を表明し「武力行使への政治的敷居が下がる」リスクも指摘した。会議が開かれたホーフブルク宮殿は10年前に核兵器禁止への「人道の誓約」が発せられた所だ。核禁条約に続き殺人ロボット禁止条約への動きが始まった。(川崎哲、ピースボート)
[2024.5] グテレス総長の提案
被団協新聞の5月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 グテレス総長の提案 3月、国連安保理で日本が議長として核軍縮・不拡散に関する公開会合を開いた。グテレス国連事務総長は、今日「核戦争のリスクはこの数十年で最も高くなっている」と警告し、これに反対する世界の声として、ローマ教皇、行動する若者たち、「勇気ある広島・長崎のヒバクシャ」、そして映画オッペンハイマーを例示した。 事務総長は「軍縮こそ唯一の道だ」と訴え、6点の行動を呼びかけた。第一に、核保有国間の対話。第二に、核の脅しをやめること。第三に、核実験停止の継続。第四に、NPTの下での核軍縮の約束の実行。第五に、核保有国間での核の先制不使用の合意。第六に、米ロ新STARTや後継条約を通じた核削減である。そして「NPTと核兵器禁止条約を含む世界的な軍縮アーキテクチャ(建造物)の強化」を求めた。 日本政府にはまずこれらの政策への支持表明を求めたい。(川崎哲、ピースボート)
[2024.4] オッペンハイマー
被団協新聞の4月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 オッペンハイマー 映画「オッペンハイマー」が公開された。マンハッタン計画を主導した物理学者の生き様を描いた映画だ。広島への原爆投下に米国人が熱狂するシーンは直視するに堪えない。大量殺戮をもたらした現実に本人が悩む姿は描かれているが、その惨状はスクリーン上には全く登場しない。想像力がなければ誤解されうる映画だ。 それでも私はこの映画を高く評価したい。核兵器と軍国主義を描いた映画だと思う。科学と政治、国家と個人、ナチズムや共産主義という「敵」の設定、男性中心社会など現代に通じるテーマが満載だ。AI兵器の登場、ガザの虐殺を止められない「民主主義国家」の矛盾、日本で高まる「国家安全保障」言説の危険性など、現代に多くの問題提起をしている。原爆によって苦しめられた人間には憤りや悔しさを感じるシーンも多いだろうが、一度は観てみることをお勧めする。(川崎哲、ピースボート)
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