日本政府は、12月16日に「国家安全保障戦略」など安全保障関連の3文書改定を閣議決定しました。反撃能力という名の敵基地攻撃能力の保有、防衛費の大幅増、武器輸出の拡大といった政策が含まれています。閣議決定の前から既に、そうした政策転換を既定路線として、巡航ミサイル購入などの動きが進んできました。
これらは、日本国憲法の平和主義の原則を逸脱し、周辺諸国との信頼関係を悪化させ、軍拡競争を助長するきわめて危険な政策です。ウクライナにおける戦争や緊迫する東アジア情勢の中での人々の危機意識に乗じて、いたずらに軍拡に傾斜していくことは、日本とアジアの平和にとって取り返しのつかない事態をもたらす可能性があります。
さらに、これらは戦後日本の防衛・安全保障政策を根本的に大転換させるものであるにもかかわらず、国会での審議はほとんどなされないままに決定されました。一部「有識者」の報告書に基づき、民主的政治過程を経ないまま閣議決定されるという手法は、重大な問題をはらんでいます。
今本当に必要なのは、日本国憲法の平和主義の原則に基づき、軍拡ではなく軍縮を進めることであり、緊張緩和と信頼醸成のための平和外交を展開することです。そうすることで持続的で安定的な国際関係を構築しない限り、本当の平和も安全保障も実現しません。軍拡のための「戦略」ではなく、平和のための「構想」こそが求められています。
こうした中、今年10月、研究者、ジャーナリスト、NGO活動者らが「平和構想提言会議」を発足させました。私は、15名のメンバーによるこの会議の共同座長を、青井未帆学習院大学教授と共につとめてきました。12月15日、政府の「国家安全保障戦略」に対置する「平和構想」がまとまり、公開会議において発表いたしました。
平和構想提言の全文は、以下の通りです。
「戦争ではなく平和の準備を ―”抑止力”で戦争は防げない―」
2022年12月15日、平和構想提言会議
http://heiwakosoken.org/wp-content/uploads/2022/12/20221214_HeiwaKoso_Final.pdf
提言発表・公開会議の様子(動画)▼
計15ページにわたる提言文書の中から、「はじめに」を以下に掲載します。
はじめに
いま日本は、戦後80年近くにわたって不戦を貫いてきた平和主義の道を歩みつづけるのか、それともその道から決定的に逸脱して、アジア近隣諸国との対立と紛争への道に進むのか、その分岐点に立っている。
政府・与党は、「国家安全保障戦略」など安全保障関連 3 文書の改定を強引に進め、まもなく閣議決定しようとしている。それは、日本の防衛・安全保障政策を根本的に変更し、日本の「国のかたち」そのものを転換させるものである。
敵基地攻撃能力の保有をはじめとする一連の政策は、日本国憲法の平和主義の原則を逸脱し、周辺諸国との関係を悪化させ、軍拡競争を助長するきわめて危険なものである。そうした決定が、憲法の下での民主的過程を経ずに強行されようとしている。
これは、大きな反対の声がわきあがった 2015 年の安保法制と並ぶ、あるいはそれ以上の重大な政策転換である。
にもかかわらず、批判的で慎重な検証も、国民的熟議もなされていない。少なからぬメディアが「結論ありき」とばかりに政府方針を既定路線として報じる中で、憲法との関係が議論されることもほとんどなく、立憲主義のもと私たちが政府に課しているはずの平和主義と民主主義の原則が、公然と無視されている。
軍事費を倍増させるような軍拡が、私たちの安全を保障するのか。むしろ軍縮こそが、それを保障するのではないか。そして、緊張緩和と信頼醸成のための平和外交の展開こそが、アジア地域の平和を実現するために求められているのではないか。
軍拡のための「戦略」ではなく、平和のための「構想」こそが求められている。戦争の準備ではなく、平和の準備をしなければならない。
今年10月、研究者、ジャーナリスト、NGO活動者ら有志が集い、平和構想提言会議を立ち上げた。そして、政府が閣議決定しようとしている「国家安全保障戦略」に対置する「平和構想」について議論を重ねてきた。この提言文書は、その成果である。
この文書が、いま起きている問題の理解を深め、国会議員、政党、政府関係者、研究者、ジャーナリスト、NGO活動者らに活用され、さらなる議論と行動につながることを期待する。
※この提言について、新聞・テレビで多数報道されていますが、そのうちのいくつかを紹介します。
「戦争ではなく平和の準備を」安保関連3文書改定、憲法学者らが対案公表
2022年12月16日、東京新聞
https://www.tokyo-np.co.jp/article/220153/1
“安保3文書改定” 有識者らが提言“抑止力に頼らない政策を”
2022年12月15日、NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221215/k10013924291000.html
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