川崎哲のブログとノート

ピースボート共同代表、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員の川崎哲の活動の紹介、オピニオン、資料などを載せています

やはり核兵器禁止しかない――ウクライナ危機から考える

本日、日本国際問題研究所軍縮・科学技術センターによる『ひろしまレポート』ウェビナーが開催されました。私は、広島県(へいわ創造機構ひろしま)の『ひろしまレポート』作成に関わる他の専門家の皆さんと共に、「ロシアのウクライナ侵略の核問題への含意」ということについて発言をしました。限られた時間でしたので十分に伝えきれたか分かりませんので、そのときに発言したかったことの趣旨を以下に記します。

現在のウクライナ危機は、核兵器禁止の緊急性を浮き彫りにしています。昨年発効し、今年6月に第一回締約国会議が開かれる核兵器禁止条約が、今こそ重要です。この条約を、世界的に普遍化しなければなりません。その理由を、以下5点にわたって述べたいと思います。

第一に、核兵器は戦争を防がなかったということです。これまで核兵器があることで、そのバランスによって世界は第三次世界大戦を免れているという人たちがいました。しかし私たちは今、第三次世界大戦が明日起きてもおかしくないという状況下にあります。今回ロシアは、NATO(北大西洋条約機構)を敵に回すことを分かっていて戦争をあえて仕掛けたのです。NATO側・米国側の核は、ロシアの軍事行動を抑止しませんでした。これまで核兵器は「戦略的安定性」のために必要だとさんざんいわれてきました。つまり大国間の戦争を防ぐためにということです。しかしそれは、崩れました。

これに対して、「いや、ロシアの核がNATO側の介入を阻止しているから核抑止は効いているのだ」とか、「米側の脅しが足りなかったからロシアが行動を起こしたのだ。もっと脅しておくべきだった」とか言う人がいます。そのような作戦の局面ごとの抑止力の議論はいろいろとあるでしょう。しかし、より大きな視点で、今や核兵器は戦争を止めるためにではなく、戦争を遂行するための道具になっているということを直視すべきであると思います。「戦略的安定」どころではありません。真逆です。

第二に、核不拡散条約(NPT)上の核兵器国の一つが、国際法を破壊する行動に出ているということです。これまで、NPT上の核兵器国というのは、まがりなりにも大国としての責任を自覚して、軍縮・不拡散に取り組む、あるいは少なくとも取り組む姿勢はみせるものだと理解されてきました。問題はむしろ、NPTの枠外で核保有をしている国々であるとか、NPTから飛び出て核保有に走ろうとする国にあると考えられてきました。実際、これまでの『ひろしまレポート』でも、9つの核保有国のうち、5核兵器国の核軍縮に関する評点は、他の4カ国に比べると明らかに高いものでした。

NPTの外での核保有を企てる国々は、「ならず者国家」などと呼ばれてきました。しかし今では、NPTの核兵器国の一つ、しかも世界の核兵器の9割を持つ二大核保有国の一つが、世界に向けて核の恫喝を行いながら国際法違反の侵略行為を続けている。まさに「ならず者」です。

もちろん、5核兵器国の全てがそういう国だとはいえないかもしれない。では今後は、西側民主主義国の核兵器はよいが、東側の「専制主義国」の核兵器はダメだというのでしょうか。いいえ、そんな議論が成り立つはずがありません。どちらも自分たちが正義で、相手側が悪だと信じているからです。「核を持ってよい国」と「わるい国」があるというNPTの線引きは、もともと無理がありましたが、ここへ来て、完全に破綻しています。

第三に、核兵器の使用は全面的に禁止しなければならず、例外的な使用を認めたならば意味がないということです。ロシア大統領府報道官は「国家存亡の危機ならば核兵器を使う」と述べましたが、これは実は、1996年の国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見とほぼ変わらない立場表明です。ICJ勧告は、核兵器の使用・威嚇は一般的には国際法違反だが、「国家存亡に関わる自衛の極限的状況」では違法であるかないか判断できないとしていました。核兵器国は、それをもって、国家存亡に関わる状況下では核兵器を使用してよいのだと解釈してきました。ロシアもそう表明しているのです。

しかし私たちはロシア政府のそのような声明を聞いて、震え上がります。なぜなら、ロシアが何をもって「国家存亡の危機」とみなすか誰にも分からないし、恣意的な解釈がいくらでもできてしまうからです。経済制裁で追い込まれたから「国家存亡の危機」だと主張することだってできます。だから、例外的な使用を認めてはいけないのです。いかなる状況下でも使ってはならないと明確に定めなければならない。1996年のICJ勧告にあったその曖昧さを埋めたのが、いかなる状況下でも核兵器の使用・威嚇を禁止した2017年の核兵器禁止条約です。

もちろん、そのような国際法があってもロシアは破るではないかという主張もあるでしょう。実際に、病院や避難所が爆撃されています。クラスター弾が使われたという報告もあります。生物・化学兵器を使用するのではないかという疑いももたれています。しかしロシアは、こうした国際法上非人道的とされる行為に関する報道があると、いつもそれを否定したり、そのような行為はウクライナ側がやったのだと言ったりしています。生物・化学兵器については、自ら使うとは言いません。ロシアは生物兵器禁止条約と化学兵器禁止条約の締約国ですから、使うなどとはいえないのです。ロシアのような国でも、国際人道法について気にせざるをえないのです。

核兵器が生物兵器・化学兵器と同様に全面的に禁止されていて、その規範をロシアも受け入れていれば、「核兵器を使います」とはとても言えません。残念ながら核兵器禁止条約の締約国はまだ60カ国で、核兵器国を包囲するほどの力になっていません。核兵器禁止条約の締約国を国際社会の圧倒的多数へと増やし、核兵器国といえども「核兵器を使う」などと容易には発言できない状況を作らなければなりません。

国際社会が、民間人を標的にした爆撃が国際人道法違反で、クラスター弾や生物・化学兵器の使用が国際条約違反であるといって非難しておきながら、核兵器の使用は違法ではありませんなどといっていたら、国際法そのものの信頼性が崩れてしまいます。

第四に、一部の国家指導者に人類の命運を委ねていいのかということです。この期に及んで「核の抑止は効いている」とか「もっとうまく相手を脅し、もっと強く抑止を効かせれば大丈夫だ」なんてことをいう人がいます。しかしそうした抑止論は、国家指導者があらゆる情報を正確に把握し理性的な判断をするということを前提にしてはじめて、有効になりえます。今回のロシアについてはどうでしょうか。これまでさんざん有識者や専門家がロシアの行動を分析して発言してきましたが、結局のところ皆「プーチン大統領が何を考え、どう判断するのかは分からない」と言うではないですか。

人類を皆殺しにする核戦争を開始するボタンを持っている人間の思考回路の正確なところが誰にも分からないのだったら、その人間を「うまく抑止」するための最適の答えにたどり着けるわけがありません。誤算やボタンの掛け違いが破滅を生む前に、核兵器そのものを禁止し廃絶しなければならないのです。

第五に、今のウクライナ情勢をみながら「やはり核兵器が必要だ」という国々が出てくるという現実があることです。それがいかに不合理なことであったとしても、戦乱の恐怖の中で、強大な軍事力にすがろうとする人々の心理や、それを煽ろうとする政治指導者の動きが出てくるのは止められません。被爆国日本においてすら「核共有」を求める議論が出てきたことは、その表れです。そういう動きが出てくるからこそ、核兵器が絶対に許されない非人道的な兵器なのだという強力な規範が必要なのです。

幸い、今この世界には、核兵器禁止条約があります。もし、このロシアによるウクライナへの侵略戦争が、核兵器禁止条約が未だない世界で始まっていたらどうなったでしょうか。NPTの信頼は地に墜ち、それに代わる国際法もなく、まさに世界的な核の無秩序へ一直線です。核兵器禁止条約は、そうなることを防ぐための強い力となります。今こそ核兵器禁止条約の価値を高く掲げ、第一回締約国会議に向けて締約国を増やし、この条約を強化していかねばなりません。この条約には今すぐ入れないという立場をとっている国々も、締約国会議に参加して、核兵器の禁止と廃絶に向けてしっかりと議論をすべきです。日本も当然、オブザーバー参加すべきです。

2022年3月28日

川崎哲

One comment on “やはり核兵器禁止しかない――ウクライナ危機から考える

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This entry was posted on 2022/03/28 by in Uncategorized.
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