[2025.6] 危機意識の欠如
被団協新聞の6月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 危機意識の欠如 5月、NPT準備委員会は、来年の再検討会議への勧告を採択することなく閉幕した。議長による勧告案は文書として残った。しかし議論の中心は、情報公開・説明責任や、再検討会議プロセスの効率化といった手続き論だった。終末時計の針が89秒前をさし、核兵器使用の可能性がかつてなく高まっているということに対する危機意識は感じられない。 主たる責任は核兵器国および他国の核兵器に依存している国々にある。その一つの日本は、核依存国も自国の政策に関する定期報告をすべきだという声を拒絶した。核兵器国はブロックに分かれ互いを非難し合っている。 核が使われた場合の壊滅的な影響に対する認識を持てば、このような悠長な議論はできなくなるはずだ。来年の再検討会議では、核がもたらす人道・環境への影響に関する特別セッションを設けて、そこから議論を始めるべきではないか。(川崎哲、ピースボート)
[2025.5] 国際賢人会議の提言
被団協新聞の5月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 国際賢人会議の提言 3月、「核兵器のない世界」に向けた国際賢人会議の最終会合が開かれ、提言が発表された。2022年に当時の岸田首相が立ち上げた専門家会議である。 提言が掲げた「中核的な原則」には、国際法の遵守といった基本原則と並んで「全ての国は、核兵器への依存から脱却するために努力し続けなければならない」と明記された。「核抑止が安全保障の最終的な形態であるとこれまで示されたことはなく、またこれからもそうあってはならない」とも述べている。政府主催の会議が、核抑止からの脱却を明確に掲げたことは重要だ。 ただし具体的な提言は、核兵器を使わせない、あるいは増やさないといった事項に偏っており、軍縮への切り込みは甘い。 外務省は、核抑止からの脱却はあくまで「最終形態」だと説明している。今からどんな行動を起こせるか、国会において真摯に議論すべきだ。(川崎哲、ピースボート)
[2025.4] 核抑止を批判する
被団協新聞の4月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 核抑止を批判する 核兵器禁止条約第3回締約国会議では「核抑止」を厳しく批判する宣言が採択された。宣言は「核抑止とは核リスクを前提としたものであり、すべての者の生存を脅かしている」と指摘し、「核兵器を持っているかどうか、核抑止政策に与しているか反対しているかにかかわらず、すべての国の安全を脅かしている」と強調している。 日本を含め、この条約に不参加の国々は核抑止が安全保障に不可欠だという。欧州では、米新政権が信用できないから代わりに仏英が「拡大核抑止」を提供するという議論まで出ている。核抑止の評価をめぐる対立点が鮮明になってきた。 オーストリアは核兵器がもたらす「安全保障上の懸念」に関する数十頁の報告書を出して、核抑止のリスクを丁寧に論じた。これをもって核に依存する国々とも議論をしていきたいとしている。日本でも正面から核抑止を議論すべき時だ。(川崎哲、ピースボート)
[2025.3] 岸田前首相の反対
被団協新聞の3月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 岸田前首相の反対 核兵器禁止条約第3回締約国会議について首相が「不参加の意向」と最初に報じたのは1月25日の読売で、その夜NHKが「代わりに与党議員を派遣する方向」と報じた。この時点で自民党内では議員を派遣する案が実際に検討されていた。2月4日の会見で自民党の森山幹事長は党の議員を派遣しないと明言した。この背景について共同通信や中国新聞は、首相からの検討指示を受け森山幹事長が岸田前首相と麻生元首相に意向を確認したところ、両氏とも反対だったので派遣しないとの結論に至ったという。核軍縮がライフワークと言っていた岸田前首相が党議員の派遣にも反対したとすれば重大な問題であって、本来メディアは岸田氏に公開取材を申し込むべきところだ。現首相が一歩踏み出すのを前首相が止めたという構図も醜悪であり、自民党による政策決定のあり方そのものを問わねばならない。(川崎哲、ピースボート)
[2025.2] 第2次トランプ政権
被団協新聞の2月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 第2次トランプ政権 第2次トランプ政権は核軍縮や平和にどんな影響を与えるか。軍事政策上の核兵器の役割は、拡大に向かうだろう。民主党政権では縮小、共和党では拡大という振り子である。 一方でかつて初の米朝首脳会談を行ったように大胆な軍縮交渉に出る可能性もある。中ロとの間においてもだ。 「ウクライナ戦争を終わらせてくれるのでは」という漠然とした期待が持たれているのも、彼の強力な交渉力ゆえだろう。これらのいくつかは実現するかもしれない。 私が危惧するのは、あからさまな国際ルール無視の姿勢がもたらす悪影響だ。各国が自国の利益を優先するのは当然だが、それは経済であれ軍事であれ、一定のルールの上でのはずである。ルールなど邪魔で無用だという外交が続けば、世界的ダメージは大きい。 日本は「交渉に負けない」ということもあるが、より重要なのは「国際ルールを壊させない」ことだ。国際法に従う核軍縮も、その一つである。(川崎哲、ピースボート)
[2025.1] カナダ議会の決議
被団協新聞の1月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 カナダ議会の決議 日本被団協へのノーベル平和賞授賞式があった12月10日、カナダ議会では一本の動議が全会一致で可決された。被団協の平和賞受賞を祝福しカナダ政府に核兵器禁止条約への「関与」を求めるものだ。 その内容はこうだ。①日本被団協がノーベル平和賞を受賞したことを評価する。②被爆者が長年たゆまず、核兵器使用がもたらす壊滅的な人道上の結果についての世論喚起をしてきたことに感謝する。③彼らのメッセージは、核の脅威が差し迫った今日において重要な意味をもつ。④核軍縮は世界の平和と安全に向けて重要な措置であることを確認する。⑤政府に対し、核兵器禁止条約へのさらなる関与を含む、具体的な措置をとることを奨励する。 核兵器禁止条約への「関与」とは、オブザーバー参加を求める趣旨と解することができる。日本の国会においても、同様の国会決議を与野党で上げるべきではないか。(川崎哲、ピースボート)
[2024.12] 「核戦争」科学パネル
被団協新聞の12月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 「核戦争」科学パネル 国連総会で「核戦争の影響と科学的調査」と題する決議が採択された。核戦争の影響を研究する科学パネルを設置するという内容で、21名の委員を国連事務総長が任命する。核戦争が地域や地球にもたらす物理的・社会的影響、つまり「気候や環境への影響、放射線による影響、公衆保健、世界的社会経済システム、農業や生態系への影響」を2025年から2年間研究し、包括的な報告書を出す。 アイルランドとニュージーランドが主導したこの決議案に第一委員会では、日本を含む144カ国が賛成した。核保有国は中国が賛成、英、仏、ロは反対、米国、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮は棄権した。NATO諸国は賛成(ノルウェーなど)と棄権(スペインなど)に割れた。 核戦争の破滅的な影響を明らかにすることは、核兵器廃絶への推進力となる。被爆国日本は委員を出して貢献すべきである。(川崎哲、ピースボート)
[2024.11] ノーベル平和賞
被団協新聞の11月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 ノーベル平和賞 日本被団協がノーベル平和賞を受賞したという報を受け、驚きと感慨を覚えながら7年前にICANが受賞したときのことを思い出した。当時とくに印象に残ったことの一つは、式典で読み上げられたノーベル委員会による授賞理由演説の質の高さである。核兵器禁止条約の意義を雄弁に語り、それに取り組む「全ての個人と団体を賞賛」した。今年の被団協への授賞理由演説が楽しみだ。 ノーベル平和賞は当時、核兵器禁止条約やICANの存在についての認知を一気に世界に広げてくれた。今年の被団協の受賞によって、ヒバクシャの存在はこれまでよりも格段に世界に知れ渡ることになる。そのお話を聞き核兵器をなくすために行動しようという人の輪は必ず大きくなる。その運動の推進は、しかし、被爆者に続く世代に課せられた課題である。お祝いに終わらせることなく、次の運動を準備したい。(川崎哲、ピースボート)
[2024.10] カザフのNGO
被団協新聞の10月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 カザフのNGO ICANは8月にカザフスタンで核被害者フォーラムを開催するにあたり地元の2NGOの協力を得た。1つは国際安全保障政策センター。代表者アクメトフさんは元外交官だが「政府ではできないことをやりたい」とNGOを立ち上げた。核実験被害者を国際会議に連れてきて実情を訴えるといった活動に長年取り組んでいる。 もう1つは、昨年発足した若者団体STOP。STは草原(ステップ)を指す。20代の彼らが会議を見事に取り仕切ってくれた。最終文書をカザフスタン政府代表に手渡す際、1人が「一言申し上げたい」とマイクをとった。そして、政府が核廃絶を国際社会に訴えているのはよいが、国内の核被害者は未だに十分な援護を受けられていない。政府はもっと被害者に寄り添うべきだと発言。これには大使もたじたじとなっていた。日本とはひと味違う民主主義の力を垣間みた。(川崎哲、ピースボート)
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