川崎哲のブログとノート

ピースボート共同代表、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員の川崎哲の活動の紹介、オピニオン、資料などを載せています

外務省による「検証」はきわめて一面的で不十分――核兵器禁止条約 オブザーバー参加問題

 昨年10月に日本被団協のノーベル平和賞受賞が発表された直後、石破茂首相は、核兵器禁止条約締約国会議へのオブザーバー参加について「真剣に検討する」と表明した。過去2回の締約国会議(2022年、23年)に参加しなかった日本政府が、来る第3回の締約国会議(2025年3月3~7日、ニューヨーク国連本部、議長はカザフスタン)にオブザーバー参加する可能性が出てきたものとして、注目された。
 その後首相は、日本と同様に米国の「核の傘」の下にいる国で過去オブザーバー参加した国の事例を「検証する」と表明した(11月27日、斉藤鉄夫公明党代表との会談にて)。以後政府は、この問題について問われると、現在その検証を行っており、その結果等を踏まえて日本としての対応を決めると説明し続けてきた。
 2月14日の記者会見で岩屋毅外相は、検証状況について問われて、以下のように説明した(全文はこちら)。
• ドイツ、ベルギー、ノルウェーは、連立政権の合意方針としてオブザーバー参加した。オランダは、議会の動議を受けてオブザーバー参加した。
• オランダは第1回会議に参加したが「さらに参加することに意味はない」と外相が判断して第2回は参加しなかった。
• (NATOに加盟申請し加盟した)スウェーデンとフィンランドは第1回のみ参加し、第2回は参加しなかった。
• オブザーバー参加したNATO加盟国(ドイツなど)は、同会議において、核抑止への支持を強調し核兵器禁止条約の締約国になることはないと発言している。また、NPTの重要性についても発言している。
 以上が、日本外務省による「検証結果」であるとするならば、驚きである。
 第一に、かけた時間のわりに内容が乏しすぎる。この程度の情報を収集するのに、なぜ2カ月半もの時間が必要だったのか。上記のような事実は、すべて公知のものであり、その事実確認には1週間も要しないはずだ。
 第二に、結果が一面的すぎる。第1回会議にオブザーバー参加した国には、第2回会議にも参加した国(ドイツ、ノルウェー、ベルギー、オーストラリア)もあれば、第2回会議には参加しなかった国(オランダ、スウェーデン、フィンランド)もある。岩屋外相の説明は、第2回に参加しなかった国にのみ焦点を当てており、第2回にも参加した国の言動についての検証や説明がほとんどなされていない。
 第三に、本来検証すべき内容に全く目を向けていない。「核の傘」の下にありながらオブザーバー参加した国の政府が、自分たちは核抑止政策をとっており核兵器禁止条約の締約国になることはできないと発言したということは事実であるが、これはいわば当たり前のことである。これは、検証の結果というより、検証する理由であるというべきだ。
 ただちに締約国にはなれないが、それでも同条約に関与しようとしている国々が、実際にどのような言動をしているかを調査することが、この検証の本来の目的であるはずだ。ドイツの場合には、自分たちは締約国にはなれないが、しかし核被害者援助の分野では貢献したいと発言している。オーストラリアの場合には、核軍縮の検証条約の執行体制について意見表明している(これらの詳細はこちら)。岩屋外相の説明は、こうした事実に全く言及すらしていない。これでは、検証結果とはとてもいえない。
 また、米国の同盟国がオブザーバー参加した際に、米国との外交関係において何らかの問題が生じたか否かという点についても、検証が行われたのかどうかが明確にされていない。これは、日本がオブザーバー参加を検討するにあたって重要な点である。外相は「相手国との関係もあり対外的に明らかにできない点がある」と言っているが、そのような検証が行われた形跡は示されていない。そうした調査をしていないのだとすれば、この2カ月半、いったい何をしてきたというのか。
 第四に、そもそも誰にヒアリングを行い、どのような検証を行ってきたのかが疑問である。
• オブザーバー参加した国の政府と直接やり取りしたのか。
• 第1回、第2回締約国会議の議長をつとめたオーストリアやメキシコの政府、あるいは同条約の締約国会議の運営を担っている国連軍縮部と、直接やり取りしたのか。これら議長国や事務局が、オブザーバー参加をどう受け止めているのかについて、見解を直接聞いたのか。
• 第1回、第2回の日本の与野党の政党の国会議員が、議員として過去オブザーバー参加している。これらの国会議員にはヒアリングしていないのではないか。
• 核兵器禁止条約の制定過程や過去の締約国会議に深く関与してきた核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)や日本被団協に、ヒアリングをしていない。

 政府は、この程度の「検証結果」をもって、来る第3回締約国会議にはオブザーバー参加しないと結論づけようということなのかもしれない。もしそうだとすれば、検証とは名ばかりの、結論ありきの時間稼ぎだったと言わざるをえない。
 与野党は、政府のこのような「検証結果」を鵜呑みにしてはならない。上述のような、政府の説明には含まれてい重要な諸点を指摘し、ここから議論を開始しなければならない。
 これまで、広島・長崎の両県知事や両市長(全国1,740の平和首長会議国内加盟都市を代表して)、そして日本被団協をはじめ核兵器廃絶を求める多くのNGOが、政府に対して核兵器禁止条約締約国会議へのオブザーバー参加を強く求めてきた。また、全国の市区町村議会の約4割が、日本が核兵器禁止条約に署名・批准すべきとの意見書を可決し政府に送っている。各種世論調査では、日本がこの条約に署名・批准すべきだという意見が6割を超えている。
 昨年日本被団協がノーベル平和賞を受賞し、今年は広島・長崎への原爆投下から80年となる節目の年である。唯一の戦争被爆国日本から世界に向けて、核兵器の非人道性と核兵器廃絶の必要性を訴えることが、今求められている。
 そのような日本の世界的・歴史的立ち位置をしっかりと見すえて、国会において真摯な議論を継続するよう、すべての国会議員および政府に対して求めたい。

2025年2月15日
川崎哲
核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員
ピースボート共同代表
核兵器をなくす日本キャンペーン専務理事
(PDF版はこちら

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This entry was posted on 2025/02/15 by in Uncategorized.