『平和研究』に投稿しました――「軍事力への依存から脱却するために」
日本平和学会のジャーナル『平和研究』第62号に「軍事力への依存から脱却するために」と題して投稿しました。こちらで読むことができます。これは、2023年6月に奈良大学で開かれた日本平和学会2023年度春季研究大会の部会(写真▲)における、平和構想提言「戦争ではなく平和の準備を」をベースにした報告と討論に基づく論考です。このたび地平社から出版された青井未帆さんとの共編著『戦争ではなく平和の準備を』の問題意識とも重なるものです。世界の分断が深まり軍拡が進む中で、軍事力に依存しない安全保障を考える一助になれば幸いです。 日本平和学会『平和研究』第62号(2024年7月)所収川崎哲「軍事力への依存から脱却するために」 (抄録) 日本政府は、2022年12月に閣議決定した国家安全保障戦略など安全保障3文書をもとに「防衛力の抜本的強化」へと突き進んでいる。憲法9条の下での「専守防衛」政策は本質的に転換された。戦後約80年が経ち、軍事的「抑止力」を肯定する意識はかなり主流化した。本稿では、そこにみられる軍事力中心主義を批判的に検証し、それから脱却するための視点を探る。 筆者が共同座長をつとめる「平和構想提言会議」(2022年10月発足)が出してきた提言や関連の声明を踏まえ、まず軍事力増強が戦争のリスクをむしろ高めることを指摘する。そして、東アジアで戦争が起きたらどうなるかを論じ、それを回避するための軍縮と緊張緩和、信頼醸成の必要性を説く。 軍事力そのものへの根本的批判として、(1) 軍拡競争と安全保障のジレンマ、(2) 軍拡の機会費用、(3) 抑止と威嚇の関係、(4) 人権と民主主義、(5) 軍事力が問題を何ら解決しないといった論点を挙げる。 そこからの脱却には、第一に防衛・安保政策の決定プロセスの民主化、第二に東アジアの信頼醸成のための対話、第三に平和的生存権や紛争の平和的解決といった原則の復権が必要である。 世界を「西側」対「それ以外」の二項対立でとらえ、日本が米国との「同盟強化」一辺倒で進むのは危険である。アジア近隣諸国や非同盟諸国との連携を強め、市民社会が参加する多元的な安全保障を追求すべきである。
[2024.7] 進む核軍拡
被団協新聞の7月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 進む核軍拡 冷戦終結以降、世界の核兵器の数は減ってきた。90年代前半は大幅に減り、以後は緩やかになりつつも減少は続いてきた。今年6月現在で世界の総数は1万2120発、前年より微減だ。しかし、実際に配備されている核弾頭と、配備のために貯蔵されている核弾頭を足した「現役の核弾頭」の数は9583発で、2018年からの6年間で332発(3.6%)増加している。「使える核」は増えているのだ。 増加が顕著なのは中国、北朝鮮、インド、パキスタンである。かつては米国とロシアが世界の核の9割以上を保有していたが、今日では8割台である。核拡散が進んでいる証だ。 イタリアでのG7サミット首脳宣言は「冷戦後の世界の核兵器の減少傾向は維持されなければならない」としているが、現実に世界は核軍拡の時代に突入している。(データは長崎大学RECNA)(川崎哲、ピースボート)
単行本『戦争ではなく平和の準備を』が出ます
平和構想提言会議が2022年12月に出した提言「戦争ではなく平和の準備を―”抑止力”で戦争は防げない」を基にした単行本が地平社から出ます(7月29日出版)。同会議の事務局をつとめる平和構想研究会の研究会合でこれまで報告をされてきた皆さまを中心に短期間で執筆していただき、学習院大学教授の青井未帆さんと私の共編という形でとりまとめをさせていただきました。平和構想提言会議のこれまでの提言と声明は、全文を掲載しています。 また、9月6日(金)午後4時~6時に、衆議院第二議員会館にて、本書の出版を記念するシンポジウムを開催する予定にしております。詳しくはまたご案内いたします。 ================(以下、地平社のサイトより)================ 戦争ではなく平和の準備を 加速する戦争準備に抗うための論集。軍事費の大幅な増加や、さらなる米軍との一体化など、政府は急速に「抑止力の強化」=軍拡を進めている。 「安全保障環境の変化」がその口実だが、軍拡がさらなる軍拡をもたらし、「安全保障環境」を自ら悪化させてはいないか。 戦争への準備そのものが、戦争のリスクを増やしているのではないか。 そして、だからこそ、私たちは憲法によって、政府が戦争に備えることを禁じたのではなかったか。 戦争ではなく平和を構想していくために、気鋭の研究者や専門家が論点を掘り下げる。 著・編者:川崎 哲/青井未帆2024年7月29日発売四六判並製、256ページ、1800円(税別)地平社 もくじはじめに――〈侵食〉に抗する粘り強い思考を(青井未帆)第1章 いま、なぜ市民の平和構想が必要なのか(川崎 哲)第2章 戦争準備と沖縄(池尾靖志)第3章 「対米従属」の現在地(猿田佐世)第4章 変容する日本の国際援助(今井高樹)第5章 軍事費増大の構造と歴史(山田 朗)第6章 ジェンダーの視点から軍拡を考える(秋林こずえ)第7章 「死の商人国家」への堕落をどう食い止めるか(杉原浩司)第8章 平和学は平和の実践とどうつながるのか(堀 芳枝)第9章 平和のアジェンダを再設定する(君島東彦)第10章 【提言】戦争ではなく平和の準備を 【声明】「戦争の時代」を拒み、平和の選択をおわりに 平和への議論の共有を(平和構想研究会) 著・編者について川崎 哲(かわさき・あきら)ピースボート共同代表。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員。平和構想提言会議共同座長。著書に『核兵器 禁止から廃絶へ』(岩波ブックレット)など多数。平和構想研究会代表。青井未帆(あおい・みほ )学習院大学大学院法務研究科教授。専攻は憲法学。平和構想提言会議共同座長。著書に『憲法を守るのは誰か』(幻冬舎新書)、『憲法と政治』(岩波新書)など多数。 詳細:https://chiheisha.co.jp/2024/07/12/9784911256114/
『世界』8月号――「戦争をやめ、核兵器禁止条約に参加せよ」
岩波書店『世界』8月号(7月8日発売)に、「戦争をやめ、核兵器禁止条約に参加せよ」と題する文章を寄せました。 現在の世界の核兵器をめぐる情勢、岸田政権の核軍縮政策の批判的検討、核兵器をなくす日本キャンペーンの発足、そして、NPT準備委員会、核兵器禁止条約第3回締約国会議、さらに被爆80年への課題を整理しています。 詳しくは、こちらから▼https://www.iwanami.co.jp/book/b649447.html
『地平』8月号に平和構想研究会の論文と座談会が掲載されました
先月創刊された地平社の月刊誌『地平』の8月号(7月5日発売)に、 「加速する戦争準備と溶解する立法府」と題して、 今年の通常国会会期中に行われた安全保障関連の立法や政策発表をまとめた論文を平和構想研究会として発表しました。 そして、その内容に関連して、猿田佐世さん、杉原浩司さんと私の座談会「平和への市民側の課題をめぐって」も掲載されています。 これは同誌・同号における「戦争準備への対抗」という特集の一環で、このほかに、前田哲男さん「米軍従属の到達点――統合作戦司令部の本質」、海渡雄一さん「経済秘密保護法は何が問題か」などが掲載されています。 詳しくは、こちらから▼https://chiheisha.co.jp/2024/06/27/chihei8/
[2024.6] 殺人ロボットの禁止へ
被団協新聞の6月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 殺人ロボットの禁止へ 4月末、オーストリアはウィーンで自律型兵器の規制に関する国際会議を開催した。自律性兵器とは人工知能(AI)が自ら標的を探知し攻撃する兵器システムのことで「殺人ロボット」とも呼ばれる。人間の関与なしに兵器自身が殺傷を行うことは深刻な倫理的問題をはらむことから、禁止を求める声が上げられてきた。昨年国連総会で初の決議が採択されている。 「人類の岐路」と題した今回の会議には日本を含む144カ国が集まりNGOストップ殺人ロボットキャンペーンからも60名が参加した。議長総括は「標的の選別や生死に関わる判断を機械に任せる」ことに懸念を表明し「武力行使への政治的敷居が下がる」リスクも指摘した。会議が開かれたホーフブルク宮殿は10年前に核兵器禁止への「人道の誓約」が発せられた所だ。核禁条約に続き殺人ロボット禁止条約への動きが始まった。(川崎哲、ピースボート)
原爆国際民衆法廷のためのフォーラムで発言しました
6月7日から8日にかけて、原爆国際民衆法廷のための第2回国際討論会が広島国際会議場で開かれています。原爆国際民衆法廷とは、米国による原爆投下の違法性を裁こうというもので、韓国の被爆者と彼らを支える韓国の市民団体(SPARK)が2026年の開催に向けて準備しています。詳しくは、6月2日付の毎日新聞の記事(こちら)をご参照ください。初日(6月7日)は、民衆国際法廷開催に向けた国際組織委員会を作るためのパネル討論が行われ、私も招待されて発言しました。ピースボートも核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)もその国際組織委員会には入っていませんが、私は、この取り組みに対する問題提起として、以下のような内容の発言をしました。(発言は英語で行いました。原稿はこちら(English text here)。以下の日本語はその概要です。韓国語訳はこちら) 原爆国際民衆法廷のための第2回国際討論会国際組織委員会を作るためのパネル討論における発言 主催者の皆様に対して、この重要な取り組みに感謝を申し上げるとともに、発言の機会をいただいたことにも感謝いたします。 1945年8月の米国による原爆投下の違法性を裁く民衆法廷の取り組みは、広島や長崎の被爆者とともに核兵器の非人道性を訴えてきたピースボートの活動や、核兵器禁止条約の普遍化を求めるICANの活動と、多くの面で重なり合います。 その一方で、民衆法廷の取り組みに対しては、市民運動の観点から、いくつか乗り越えなければいけない課題があるとも感じています。学術的、法的観点というよりも、政治的あるいは社会的観点からです。 第一に、この民衆法廷は、米国による原爆投下の責任を問うことが主眼ですが、この取り組みにおいて、日本政府の責任をどう問うていくのかという問題です。 日本の被爆者運動は、1950年代以降、一貫して、日本政府による被爆者への国家補償と、核兵器廃絶の2本柱の要求を掲げてきました。それは、日本政府には戦争を開始した責任があると考えるからです。 実は、この国家補償の要求は、いまだに実現していません。日本には、被爆者に対する医療や手当など様々な援護施策があります。しかしそれらはあくまで社会サービスであって、法的な賠償ではないというのが政府の考え方です。これではダメだと、今日でも、日本の被爆者は要求を続けています。 韓国の被爆者の皆さんは、米国による原爆投下の被害者であると同時に、日本の植民地支配の被害者でもあります。日本政府の責任をどう扱うのかという問題を今一度議論する必要があるのではないでしょうか。 もちろん、日本政府の責任を棚上げにして、米国の犯罪行為を追及することに集中するというのも、一つの運動論としてはありえます。そのようなキャンペーンは、日本でも多くの支持を集める可能性があります。しかしそれは同時に「第二次世界大戦における被害者は日本だったのだ」というような意識を広げ、日本のナショナリズムを誤った形で助長する危険性を持ちます。私はこれを、あえて危険性と呼びます。このような日本のナショナリズムは、このアジアにおいて戦争を繰り返させないという私たちの共通の願いにとって、逆効果となる可能性があるからです。 いずれにせよ、日本の被爆者も、韓国の被爆者も、等しく米国による原爆投下の被害者です。ですので、韓国の被爆者の皆さんが民衆法廷の取り組みを進めるにあたっては、今後、日本の被爆者団体との綿密な協議が必要になると思います。 第二に、1945年の原爆投下の違法性を問うことと、今日の核兵器廃絶の取り組みの関係についてです。 原爆投下の犯罪性を議論することは、今日における核抑止論の不当性を明らかにすることに繋がります。 一方で、例えば米国の指導層の議論を見たときに、原爆投下はやむを得なかったが、今日においては核兵器は不要であり、その危険性に鑑みて廃絶すべきであるという議論があります。このような考え方の人々を、核兵器廃絶運動にとって仲間と見るのか、説得して改心してもらうべき相手と見るのか、という問題があります。 8年前、米国の現職大統領として初めて広島を訪れたバラク・オバマ氏に対して、広島は謝罪を求めるのか、求めないのかという論争がありました。これは極めて複雑な思考と感情が入り混じった論争になりました。結果、広島は公式には謝罪を求めませんでしたし、オバマ氏ももちろん謝罪はしませんでした。それでも彼が広島を訪れて、核兵器廃絶の目標を語ったことはプラスに評価できるという見方が、私の理解する限り、多数派です。しかし、本当は謝罪してほしかったという気持ちを持っている人も、決して少なくありません。 原爆投下の違法性とそれへの謝罪を重点に置いた運動は、こうした被爆地の複雑な世論にどう向き合っていくのかを考える必要があります。 第三に、2021年に発効した核兵器禁止条約との関係です。この条約には、核兵器の使用・実験による被害者を援助するという規定があります。来年の第3回締約国会議に向けて、被害者援助のための国際信託基金を作るという議論が進行中です。 この条約での被害者援助の規定は、条約締約国に核被害者が生活している場合に、第一義的にはその締約国政府が彼らを援助をする義務を負うというものです。その上で国際協力の制度を作り、当該政府を国際的に支援しようというものです。 例えば韓国がこの条約に入ったならば、韓国政府は、自国内にいる被爆者を支援する法的義務を負うことになります。 なぜ、核兵器を使用・実験した国に直接責任を問わないのか、と疑問に感じる方がいるかもしれません。しかし、このような仕組みの方が現実的なのです。核兵器を使用・実験した国は、このような条約に進んで入ってくることはしません。そこで、彼らが入ってくるのを気長に待つのではなく、目の前に被害者がいる以上まず救済しよう、そのために国際社会が協力しようというアプローチです。核兵器を使用・実験した国には、その国際協力への参加を求めていきます。 被爆者も、核実験の被害者も高齢化しています。彼らを現実的に救済する制度づくりに、いま国際的な期待が高まっています。 米国に補償を求めていくという民衆法廷の運動が、こうした核兵器禁止条約の取り組みとどのように関係を築いていくのかという点も、今後議論が必要だと思います。 ご清聴ありがとうございました。 川崎哲(ICAN国際運営委員、ピースボート共同代表)2024.6.7 英語原稿はこちら(English text here)韓国語はこちら
[2024.5] グテレス総長の提案
被団協新聞の5月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 グテレス総長の提案 3月、国連安保理で日本が議長として核軍縮・不拡散に関する公開会合を開いた。グテレス国連事務総長は、今日「核戦争のリスクはこの数十年で最も高くなっている」と警告し、これに反対する世界の声として、ローマ教皇、行動する若者たち、「勇気ある広島・長崎のヒバクシャ」、そして映画オッペンハイマーを例示した。 事務総長は「軍縮こそ唯一の道だ」と訴え、6点の行動を呼びかけた。第一に、核保有国間の対話。第二に、核の脅しをやめること。第三に、核実験停止の継続。第四に、NPTの下での核軍縮の約束の実行。第五に、核保有国間での核の先制不使用の合意。第六に、米ロ新STARTや後継条約を通じた核削減である。そして「NPTと核兵器禁止条約を含む世界的な軍縮アーキテクチャ(建造物)の強化」を求めた。 日本政府にはまずこれらの政策への支持表明を求めたい。(川崎哲、ピースボート)
[2024.4] オッペンハイマー
被団協新聞の4月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 オッペンハイマー 映画「オッペンハイマー」が公開された。マンハッタン計画を主導した物理学者の生き様を描いた映画だ。広島への原爆投下に米国人が熱狂するシーンは直視するに堪えない。大量殺戮をもたらした現実に本人が悩む姿は描かれているが、その惨状はスクリーン上には全く登場しない。想像力がなければ誤解されうる映画だ。 それでも私はこの映画を高く評価したい。核兵器と軍国主義を描いた映画だと思う。科学と政治、国家と個人、ナチズムや共産主義という「敵」の設定、男性中心社会など現代に通じるテーマが満載だ。AI兵器の登場、ガザの虐殺を止められない「民主主義国家」の矛盾、日本で高まる「国家安全保障」言説の危険性など、現代に多くの問題提起をしている。原爆によって苦しめられた人間には憤りや悔しさを感じるシーンも多いだろうが、一度は観てみることをお勧めする。(川崎哲、ピースボート)
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