川崎哲のブログとノート

ピースボート共同代表、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員の川崎哲の活動の紹介、オピニオン、資料などを載せています

[2022.8] 核抑止という誤り

被団協新聞の8月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 核抑止という誤り  6月のウィーンでの核兵器禁止条約締約国会議とその前の核の非人道性会議は、核抑止論を厳しく批判した。非人道性会議の議長総括は「ロシアによる核の威嚇は、核抑止論に基づく安全保障の脆弱性を示した。核兵器は戦争を防ぐどころか核武装国による戦争開始を後押ししている」と述べ「新しい技術の発展は、核抑止が核戦争を防ぐという理論に疑問を投げかけている」と続けた。締約国会議の政治宣言は「核抑止論の誤り」を強調し、核武装国に「いかなる状況下でも核兵器を使用また威嚇しないよう」求めた。このメッセージは核保有国はもちろんその「傘」に頼る日本のような国々にも向けられている。 8月のNPT再検討会議は、核の非人道性と核抑止政策の危険性について真摯に議論すべきである。核兵器の存在そのものがリスクであることを直視しなければならない。(川崎哲、ピースボート)  

2022/08/13 · 1 Comment

[2022.7] 核禁条約とNPT

被団協新聞の7月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 核禁条約とNPT  核兵器禁止条約第1回締約国会議には、ノルウェー、ドイツに加えNATO加盟国であるオランダとベルギーそしてオーストラリアがオブザーバー参加した。この5カ国はいずれも米国の「核の傘」下にある国である。これらの国々は、自分たちは核禁条約に加入する予定はないとかNATOの核抑止にコミットしている等と述べつつ、核禁条約の締約国との議論を深める姿勢を示した。核被害者支援などでの協力を示唆する発言もあった。とりわけ強調されたのは、NPTとの相互補完性である。核禁条約はNPTと同じ目標に向けて補完し合うことを、8月のNPT再検討会議を前に確認することが重要視されたのである。これこそ「橋渡し」である。それに比べて日本政府は「核兵器国が一カ国も参加していない」から日本も参加しないの一点張りだ。惨めな外交と言わざるをえない。(川崎哲、ピースボート)  

2022/07/18 · 1 Comment

[2022.6] 豪州の政権交代

被団協新聞の6月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 豪州の政権交代  オーストラリアの総選挙でアルバニージー党首率いる労働党が勝利し政権交代を果たした。同氏は、労働党が2018年に「政権を取ったら核兵器禁止条約に署名・批准する」と決議したときの立役者だ。「これは容易ではないが、正しいことだ」と党大会で彼は演説した。労働党はこの方針を昨年3月に再確認している。 アルバニージー氏は、かつて仕えた同党の有力政治家ユーレン議員に影響を受けている。日本軍の捕虜として長崎の原爆を目撃したユーレン氏は原爆投下を「人道に対する罪」と呼び核廃絶に取り組んできた。2015年に他界した氏の遺志を継ぎ、アルバニージー氏は核兵器禁止条約を一貫して支持してきた。 「核の傘」を脱し核兵器禁止条約に加わる最初の国となりうる政府が誕生した。むろん紆余曲折はあろう。まずは締約国会議への出席に期待したい。(川崎哲、ピースボート)  

2022/07/11 · Leave a comment

[2022.5] 核使用の条件?

被団協新聞の5月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 核使用の条件?  3月、ロシアの報道官が「国家存亡への脅威があれば核兵器を使用する」と発言した。それがロシアの公式の核政策である。国際司法裁判所は1996年の勧告的意見で核兵器の使用・威嚇は「一般的に国際法違反」だが「国家存亡に関わる極限状況では判断できない」とした。核兵器国は、だから国家存亡の危機では核使用は許されると解釈してきた。 だが「国家存亡の危機」など、いかようにも解釈可能だ。たとえば経済制裁で国家存亡の危機とだって言える。 一方米バイデン政権は核態勢見直しで、核の先制不使用の約束はせず、米国や同盟国の死活的利益を守る「極限状況」では核を使用するとしている。これまた何をもって極限状況というかは不明だ。 結局、条件付きで認めてはダメなのだ。核兵器禁止条約のように、いかなる場合でも使用禁止にしないと、本当の安全はない。(川崎哲、ピースボート)  

2022/05/22 · Leave a comment

[2022.4] 核がないと不安?

被団協新聞の4月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 核がないと不安?  ロシアによる侵攻が続くなか「ウクライナは核兵器を持っていれば攻められなかった」という声がある。91年に独立したウクライナは旧ソ連の核兵器を引き継いたが、それをロシアに返還して非核国となった。このことと今日ロシアがウクライナに侵攻したことの間に因果関係はない。歴史的経緯からみても無理筋な話が流行るのは、そう信じたがる人が少なくないからだろう。 日々戦争の報道が続くなか、人々の気持ちが戦争モードになり「核でも持たなければ不安だ」という感じる人が出てきているのだ。 一部の政治家が「核共有論」を語り始めたのも、その不安につけ込んでである。いま改めて被爆者や戦争体験者の言葉が求められている。戦争は勝ち負けでは語れないこと、核を戦争の道具としてもてあそぶことは自滅への道であることを、しっかりと伝えていかなければならない。(川崎哲、ピースボート)  

2022/04/18 · 1 Comment

[2022.3] 核戦争をさせるな

被団協新聞の3月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 核戦争をさせるな  ロシアがウクライナに軍事侵攻した。外交努力を放棄しての暴挙だ。最悪の場合は核戦争に発展する可能性がある。冷戦終結後30年以上が経つが東西の核対立は続いており、ロシアとNATO(北大西洋条約機構)の対決の構図になっている。 ロシアとNATOの間の戦争のシミュレーションを2019年にプリンストン大学のチームが発表している。一発の核の警告発射が引き金で核戦争となり、わずか数時間で9千万人以上の死傷者が出るという予測だ。 米ロを含む5核兵器国は「核戦争に勝者はいない」として、核保有国間の戦争を防ぐのだとする共同声明を1月に発していた。そのわずか1カ月後に今の危機である。核保有国は、核保有国と戦争になる可能性があってもときに無謀な行動に出る。だからこそ戦争をさせてはいけないし、核兵器をなくさなければならない。(川崎哲、ピースボート)  

2022/03/17 · Leave a comment

[2022.2] すすむ投資禁止

被団協新聞の2月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 すすむ投資禁止  世界で101の金融機関が核兵器の製造や開発に関わる企業に投資しないという方針(ポリシー)をもっていると、オランダのNGO「PAX」が1月に報告書で発表した。2016年の54機関、19年の77機関にから着実に増えている。 このうち59機関はいかなる形でも核兵器製造企業と金融上の取り引きを行わないという包括的な方針をもっている。最近加わったところとしてアイルランド、オーストラリア、スイス、フィンランド、米国などの金融機関が並ぶ。残りの42機関の方針は包括的禁止と呼ぶには不十分とされる。日本の銀行名は挙がっていない。方針を発表していても、その信頼性を確認する情報が不足しているからだと考えられる。 このような方針の根拠として、多くの金融機関が核兵器禁止条約を挙げている。発効後1年、条約は確実に効果を上げている。(川崎哲、ピースボート)  

2022/02/19 · Leave a comment

[2022.1] オブザーバー参加せよ

被団協新聞の1月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 オブザーバー参加せよ  核兵器禁止条約締約国会議に日本はオブザーバー参加すべきである。被爆国として核の非人道性を訴える好機である。条約に署名・批准することと会議に参加することは次元が異なる。米国の核抑止力に依存する日本は、その政策を変えない限り条約には入れない。だが首相がこの条約が核廃絶の「出口」として重要と言うのだから、出口への道筋を探るためにも参加は必須だ。 米国との信頼関係づくりが先だと首相はいう。だが日本は毎年の核廃絶国連決議で米国の賛成をえて、信頼を得ているではないか。核保有国を巻き込む措置が必要なのは確かだが、だから非核国の会議には出られないということにはならない。 政府は目をそらすな。条約はもう存在する。参加して関与せよ。岸田首相は首脳会談でバイデン大統領にその意思を伝えた上で、会議参加を発表すべきである。(川崎哲、ピースボート)  

2022/01/24 · Leave a comment

[2021.12] 先制不使用の意義

被団協新聞の12月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 先制不使用の意義  米国が検討している核の先制不使用宣言に、日本が反対している。松野官房長官は、先制不使用宣言は「すべての国が検証可能な形で行わなければ有意義でない」からだという。 だが岸田首相は外相時代の14年、長崎で「核兵器の役割低減」が重要だと演説し、核兵器使用は「少なくとも自衛の極限状況に限定する」と宣言をすべきだと述べていた。そして核保有国は宣言と合致するよう「核の配備態勢を見直す」べきだとした。岸田首相は今この考え方に立ち、核の先制不使用宣言を促し、それを裏付ける配備態勢見直しを求めればよいではないか。なぜ今拒否するのか。 なおそのときの岸田演説には「核使用を容認するのか」との批判が出て、政府は事後に釈明した。先制不使用は、報復攻撃を奨励するものではなく、核使用の可能性を減らし最終的にゼロにするための一歩なのだ。(川崎哲、ピースボート)  

2021/12/15 · Leave a comment