[2023.5] 核兵器への援助
被団協新聞の5月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 核兵器への援助 ロシア国防省は4月、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を行い成功したと発表した。新型ミサイルの開発に向けたものだといい、米政府には事前通告をしたとしている。 ミサイルは南部の試験場から発射され、隣国カザフスタンの試験場に置かれた標的に命中したという。カザフスタンの試験場は、これまでもロシアの実験に使われてきた。 カザフスタンは核兵器禁止条約の締約国である。同条約は第1条で、核兵器の開発、保有、使用を禁止し、それらの行為をいかなる形であれ援助、奨励、勧誘することを禁止している(e項)。ICBMは核兵器の運搬手段であり、その実験に協力することは核兵器開発の援助にあたると考えるべきだろう。カザフスタン政府は締約国としてまずはしっかりと説明し、今後ミサイル実験に協力しないと表明すべきだ。(川崎哲、ピースボート)
[2023.4] G7広島サミットへ
被団協新聞の4月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 G7広島サミットへ 5月19日に始まるG7広島サミットは、被爆地で開催される初の主要国首脳会合となる。核廃絶に向けてサミットがなすべき事項を端的に3つ挙げたい。 第一に、首脳らは被爆者と会い証言を聞き、原爆資料館をしっかりと見学すべきである。 第二に、首脳宣言は、核兵器のあらゆる使用がもたらす壊滅的な非人道的結末への憂慮を表明すべきである。これは過去のNPT再検討会議で合意されている表現である。核保有3カ国と核傘下4カ国の首脳が再表明することの意義は大きい。 第三に首脳らは「核兵器のいかなる使用・威嚇も許されない」ことを明示的に表明すべきである。昨年11月のG20バリ宣言はこれを表明しているから、G7にもできるはずだ。ロシアの核を非難するのは当然だが、あらゆる核の使用・威嚇が許されないと確認することこそ、その廃絶への第一歩となる。(川崎哲、ピースボート)
[2023.3] 敵基地攻撃
被団協新聞の3月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 敵基地攻撃 政府は昨年末の国家安全保障戦略で「反撃能力」と称する敵基地攻撃能力の保有を決定した。そして長射程ミサイルの購入・配備計画を進めている。 政府は従来、ミサイルの脅威には迎撃網を強化するとしてきた。しかし今回「ミサイル防衛網だけで完全に対応することは難し」いとして「有効な反撃を加える能力」の保有を決めたというのである。 実際に相手からミサイル攻撃があり日本が反撃すれば、さらに相手は反撃してくるだろう。これを迎撃しきれないことは政府が認めているとおりであり、ミサイル撃ち合いの戦争になるのである。 政府は「抑止力の強化」のためだというが、実際にしていることは、抑止が破れて戦争になった場合の戦闘能力の整備だ。それをみた相手も当然、戦闘態勢を強化するだろう。 このような軍拡競争は止め、軍縮外交こそ進めるべきだ。(川崎哲、ピースボート)
[2023.2] 学者の利益相反
被団協新聞の2月号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 学者の利益相反 昨年末、パリの2人の研究者が「核兵器政策における調査資金と利益相反」と題する論文を発表した。外交政策シンクタンクの多くが、核兵器関連企業や核抑止戦略を掲げる政府から資金を得ており、こうした利害関係者からの資金が知的自由に影響を及ぼしているという内容だ。世界45のシンクタンクへのインタビューと調査の結果として明らかにした。 その影響とは検閲、またより多くの場合は自主規制としてみられる。とくに「議題の設定」に強い影響をもつ。ある防衛業者は、資金提供によって自社に不利となる調査結果を出さなくなることを期待していると証言した。ある政府関係者は「論争を起こしたくないなら批判者に資金提供をするのがよい方法だ」と述べた。核兵器が世界平和に必要だという学者がいたら、その人がどこからお金をもらっているのかを検証する必要があろう。(川崎哲、ピースボート)
[2023.1] 国際基金設置へ
被団協新聞の1月号(新年号)に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 国際基金設置へ 核兵器禁止条約の第2回締約国会議が今年11月に開かれる。それに向けて具体的進展が望めるのは核被害者援助の分野だ。条約第6、7条には核兵器の使用・実験の被害者に援助を提供し核実験等により汚染された環境を修復すること、そのための国際協力を行うことが定められている。昨年のウィーン行動計画には、そのための国際信託基金の設立の可能性が盛り込まれている。実現には、世界中の政府と民間からの拠出が必要になるだろう。これには人道的見地から核兵器禁止条約の未締約国であっても貢献できるはずだ。とりわけ被爆国日本は積極的に関わるべき課題だ。 ウィーン行動計画は、核被害者援助に関するあらゆる段階で核被害地域の人々との「綿密な協議と積極的関与」を定めている。日本の被爆者や被爆医療の専門家、法律家らの積極的な取り組みが求められている。(川崎哲、ピースボート)
[2022.12] 米核態勢見直し(NPR)
被団協新聞の12号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 先制不使用採用せず 米バイデン政権による核態勢見直し(NPR)が公表された。争点だった核兵器の役割については「核兵器の根本的な役割は米国、同盟国、友好国への核攻撃の抑止」としている。先制不使用や、核の役割を核抑止に限定する「唯一目的」政策については「徹底した検討」の結果採用できないと結論づけた。先制不使用や唯一目的宣言をすると、競合国の核以外の軍事力による「受け入れがたいレベルのリスク」をもたらすからというのである。 報告書は、こうした非核の脅威にさらされた同盟国があるとし、これらの国々に配慮した決定であることを示唆している。日本政府は一貫して先制不使用や唯一目的に反対してきた。NPRは、先制不使用や唯一目的の目標を維持し、そのために同盟国と協力していくと述べている。日本がこれに向けてどのような行動をとるかが問われている。(川崎哲、ピースボート)
[2022.11] 核不使用の約束?
被団協新聞の11号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 核不使用の約束? NPT再検討会議では核保有国も含め「核兵器は決して使われてはいけない」とくり返し確認された。だが実際の政策はどうか。先のNPT最終文書案では「先制不使用」や核の役割を抑止に限定する「唯一目的政策」が言及されていたが、後に削られた。さらに核保有国の同盟国も核の役割を減らすべきとの文言が最初あったが削られた。また非核兵器国には核を使用しないという「消極的安全保証」については、最初は無条件でとなっていたが「核保有国の声明に従って」という言葉が挿入された。これは、非核国が核保有国と同盟している場合は保証の限りではないという意味だ。このように核不使用の約束はどんどん骨抜きになっていった。そして今年の国連総会での日本決議案は、核の先制不使用にも役割低減にも言及していない。これでどうやって「核兵器を使わせない」というのか。(川崎哲、ピースボート)
[2022.10] 核兵器国による報告
被団協新聞の10号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 核兵器国による報告 NPT再検討会議で議論されたことの一つに、核兵器国による報告の問題がある。2010年の再検討会議での合意事項の一つで、核兵器国が核戦力や核物質の保有量やその削減状況を報告する。核軍縮を口約束に終わらせないための措置で、日本政府が重視する「透明性」にも資する。 その後核兵器国は報告書を出すようになったが、書式や頻度は決められていない。各国が好き勝手にやっている。そこで標準書式を作ろうとなり、2015年の再検討会議では具体的な提案が出た。だがそのときも今回も会議は決裂し、決定までこぎ着けなかった。 今年の最終文書案に残ったのは標準書式を作る作業を「さらに続ける」という言葉だった。結局、報告をすることが決まってから12年経って書式一つできていないのだ。核兵器国は核軍縮の入り口の、さらに入り口で足踏みしたままだ。(川崎哲、ピースボート)
[2022.9] 威嚇か抑止か
被団協新聞の9号に寄せた連載コラム(非核水夫の海上通信)を紹介します。 威嚇か抑止か NPT再検討会議では多くの国がロシアによるウクライナ侵攻と核の威嚇を非難した。これにロシアはこう反論した。まず侵攻について、ウクライナ政府による東部ロシア系住民迫害へのやむを得ない措置と主張。次に核の威嚇については、ウクライナに対し核の威嚇をしていないと主張。ロシアが核を使用するのは大量破壊兵器の攻撃あるいは通常兵器の攻撃で国家の存立が脅かされたときのみであり、ウクライナはこれに当てはまらないと明言。ロシアが核の警戒態勢を高めたのはNATOが軍事介入する可能性に備えたもので、これは威嚇ではなく抑止だというのである。 これに対し米英仏はロシアは「無責任」で、自分たちは「責任ある」核保有国だと主張する。だがそもそも威嚇と抑止を区別できるのか。無責任で「悪い抑止」と、責任ある「良い抑止」があるなどといえるのか。(川崎哲、ピースボート)
Recent Comments